動画制作ご依頼の際の注意点

映像等は下請法の「情報成果物」の扱いです

映像等の制作は、下請法における「情報成果物作成」にあたりますので、テレビ局様や映像制作・番組制作プロダクション様など、弊社と事業内容が類似するお客様が弊社を下請けとして活用する場合、発注主としてのお客様と受注した弊社の関係は、下請法の親事業者と下請事業者の関係になります。
こうした親事業者と下請け事業者の場合、発注・受注の際には下請法に関わる一定のルールがありますのでご注意願います。また、お客様が放送・映像関連の企業様でなかったとしても下請法の精神は様々な他の法律にも反映され類似するものもありますので、現代流の商道徳の一種と受け止めていただいたほうが良いかもしれません。基礎的知識として知っておくべきルールですので、ぜひご一読ください。
またお客様(法人)の資本金が1000万円を超えない場合は、この下請法は適用されません。あくまでお客様が資本金1000万円以上の企業様である場合に限り、この下請法が適用されます。

下請法における注意すべき4つの親事業者の義務とは

基本的に下請法は下請事業者の権利保護のために作られた法律です。しかしいくつかの守るべき事柄を守ってさえいただければ、この法律がお客様にとって何ら障壁になるものではありません。
以下にその「親事業者の義務」について記載しますが、これらをよくお読みいただければ、通常の商取引の常識と大きく乖離していないことがお分かりいただけるものと思います。

4つの義務

義務 概要
書面の交付義務 発注の際は,直ちに3条書面を交付すること。
支払期日を定める義務 下請代金の支払期日を給付の受領後60日以内に定めること。
書類の作成・保存義務 下請取引の内容を記載した書類を作成し,2年間保存すること。
遅延利息の支払義務 支払が遅延した場合は遅延利息を支払うこと。

発注書・契約書について

まず書面の交付義務という項目です。概要の欄には「3条書面」と書かれていますが、これは下請法の3条に書かれている、いわゆる「発注書」「契約書」のことです。
この書面に定めなければならない基本的な事柄は決して多くはありません。
なお、3条書面(発注書・契約書)に記載する必要がある項目は、下請法から以下抜粋してご紹介します。

【3条書面に記載すべき具体的事項】
(1) 親事業者及び下請事業者の名称(番号,記号等による記載も可)
(2) 製造委託,修理委託,情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
(3) 下請事業者の給付の内容(委託の内容が分かるよう,明確に記載する。)
(4) 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は,役務が提供される期日又は期間)
(5) 下請事業者の給付を受領する場所
(6) 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は,検査を完了する期日
(7) 下請代金の額(具体的な金額を記載する必要があるが,算定方法による記載も可)
(8) 下請代金の支払期日
(9) 手形を交付する場合は,手形の金額(支払比率でも可)及び手形の満期
(10) 一括決済方式で支払う場合は,金融機関名,貸付け又は支払可能額,親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
(11) 電子記録債権で支払う場合は,電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日
(12) 原材料等を有償支給する場合は,品名,数量,対価,引渡しの期日,決済期日,決済方法

以上の点が発注書や契約書に記載すべき事項です。
一般的な取引に使用する発注書や契約書の内容と大きな違いはありませんが、便宜上クライアント企業様が資材部などを経由して発注を行う際は注意が必要です。
例えば多くの企業様の資材部が発行する注文書は、あくまで資材・物品を注文するための書式であり、上記のような「役務提供を伴う情報成果物(映像制作等)」の発注には適当とは言えません。物品など資材注文が前提の書式はコンプライアンス的な問題が発生する可能性もあります。お客様のご都合で既存の書式の発注書・契約書を使用したい場合などは必ず契約前にその書式について弊社にご相談ください。

また、映像等制作物の契約では著作権の譲渡手続きがつきものです。映像等の制作は下請法における「役務提供」である以上に著作権法上の「創作」ですので、著作権にも配慮した契約形態が望まれます。この点につきましては著作権についての解説でご説明いたしておりますのでご一読をいただければと思います。
>>制作した映像の著作権について

なお、契約書面についてご不安があれば、弊社でも下請法と著作権法に則った契約書面のひな形をご用意いたしておりますので、ぜひご相談ください。

支払期日について(第2条の2)

下請法の第2条には、以下のように記載されています。

親事業者は,下請事業者との合意の下に,親事業者が下請事業者の給付の内容について検査するかどうかを問わず,下請代金の支払期日を物品等を受領した日(役務提供委託の場合は,下請事業者が役務の提供をした日)から起算して60日以内でできる限り短い期間内で定める義務があります。

いわゆる支払期日とその方法についてですが、納品から起算して60日以内にお支払いただければ法的には問題がありません。
ただしご注意いただきたいのは「親事業者が下請事業者の給付の内容について検査するかどうかを問わず」という記載があることです。
これは、ご発注内容を基に制作した映像等をチェックし、修正作業を行うことが常である映像等の制作現場にはあまりそぐわない内容であると弊社では考えております。
法律を厳密に解釈すれば、お客様が弊社から上がってきた映像等の成果物をチェックするしないにかかわらず、第一稿の納品期日が、納品日ということになってしまいます。ですので、一般的には契約書上の別条項として瑕疵があった場合についての決まりごとを定めておくのが一般的です。
弊社ではお客様がしっかりと内容を精査して修正指示を出せるように、法的な権利とは別に弊社の考え方として最大30日間の検収期間を設定しています。つまり、検収(納品チェック)を早めに行っていただく姿勢がある限り、弊社は実際に納品物を納めてから30日間は「本納品」として扱わず待機するという自社ルールです。
下請法の存在があるため、通常の検収期間は7日から14日間程度が多いのですが、この短期間ではお客様が相当良心的に検収を早めに行ってくださる必要があります。状況によっては、いくら急いでも仮納品されてきた動画をお客様が検収を行い弊社に修正依頼を出すまでに一か月はかかる場合もあるでしょうし、せめて検収期間に一か月の余裕があればお客様も助かるだろうという意図で、弊社に定着している方法です。
なお、弊社はお客様からのオーダー内容通りに成果物が完成していない場合は自主的に修正を行っております。(※1)

書類の作成・保存義務について

お客様は、映像等を弊社に発注して制作し、その対価を支払ったということがわかる書面を記録として保存する必要があります。お客様の会社でも当然記録として書面を作成しておられるでしょうが、映像等の制作を委託するのが初めての場合、困惑される場合もあることでしょう。
その場合は弊社にご相談ください。下請法や著作権法に則った書式の書面を弊社でもご用意いたしておりますので、そちらを二年間保管いただければと思います。

支払の遅延の場合について

映像等を普段から制作されている企業様や、製造業の企業様の場合はともかく、下請法を意識した商取引を普段行わない企業様はたくさんあります。下請法では先にもご説明しました通り、納品から60日以内の支払義務がありますが、実際は早い場合で納品から一か月以内、遅い場合ですと納品から半年後など、かなりお支払期日に幅があるのが現状です。
そこで60日以内のお支払が難しい場合のために、下請法には以下のように定められております。

親事業者は,下請代金をその支払期日までに支払わなかったときは,下請事業者に対し,物品等を受領した日(役務提供委託の場合は,下請事業者が役務の提供をした日)から起算して60日を経過した日から実際に支払をする日までの期間について,その日数に応じ当該未払金額に年率14.6%を乗じた額の遅延利息を支払う義務があります。

以上、お客様が映像等の制作を発注される場合に知っておいて損はない、下請法の基礎です。ただし、これらの手続きについては暫時弊社からご案内させていただきますし、書式も整っておりますので、お困りの際はご相談いただければ弊社からご案内申し上げます。

親事業者の11の禁止事項

上記4つの義務以外にも、親事業者には以下の11の行為が禁じられています。まだまだ映像業界や出版業界においても下請法が浸透していないと思われることもありますので、ぜひこの機会にご一読いただければと思います。
なおご一読いただければわかることですが、これらの禁止事項は誠実なお取引をいただいているお客様にとっては何ら障壁となるものではありません。ごく当たり前の商道徳を成文化しているに過ぎないと言っても良いと思います。

親事業者の11の禁止事項

禁止事項 概要
下請代金の支払遅延 60日以内の定められた期日までに下請代金を支払う義務があり、支払が遅れる場合は下請事業者の承諾を得たうえで「いつまでに支払うか」と「遅延利子14.6%分の金額」を明記書面を作成する必要がある。
下請代金の減額 値引きや協賛金、歩引きなど発注時に定められた金額から一定額を減額してはならない。
不当返品 既に受け取った成果物を返品してはならない。
(瑕疵など下請事業者に責任がある場合は除く)
買い叩き 発注した内容の同種・類似な仕事に対して、通常支払われるべき対価(相場の金額)と比べて著しく低い額を不当に定めてはならない。
品の購入・サービス利用の強制 正当な理由なしに、親事業者が指定する物品の購入やサービス利用の強制購入・利用は禁止。また正当な理由であっても、購入・利用させる場合は、その金額も下請代金に上乗せする必要がある。
報復措置 下請事業者により、親会社の下請法違反行為を公正取引委員会や中小企業庁に知らせたとして、取引数量削減や取引停止などの報復を行うことは禁止。
支給原材料などの対価早期決済 有償支給する原材料などで、下請事業者が物品の製造などを行っている場合は、下請代金支払い期限より早く支給した原材料などの対価の支払請求、下請代金から控除する事は禁止されている。
割引困難な手形の交付 下請代金を手形で支払う場合、60日を超える長期の手形など、一般金融機関で割引を受けることが困難な手形の交付は禁止。
不当な経済利益の提供要請 親会社の利益のために、下請事業者に現金やサービスなどの利益を提供させることは禁止。
不当な給付内容の変更・やり直し 下請事業者に責任がないのに、費用を負担せずに発注取り消しや内容の変更、やり直しを行わせることは禁止。もし、正当な理由で取り消しや内容の変更を行う場合は、その内容を記載し、下請事業者の承諾を得た状態で必要書類を保存する必要がある。

上記の表の中で映像業界で特に注意すべき禁止事項について以下に触れてみたいと思います。

不当返品について

不当返品は映像業界で特に気を付けるべきことです。例えば映像制作会社である親事業者がCGを外部の下請事業者に発注した場合で、そのCGがプレビューでの判断などにより不要になってしまったなどの場合です。このように途中で不要になった場合でも制作委託したCGの納品を拒否することはできず、費用を発注主である親事業者が負担する義務があります。

割引困難な手形の交付

出版業界などでまだあるのですが、60日を超える長期手形による支払は基本的に避けた方が無難です。平成28年12月14日に「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の見直しが行われましたが、これまでは「割引困難な手形」の定義は繊維業が90日、それ以外の業種は120日以内となっていましたが、あまりに当然のように90日の手形取引を行う会社があるため、現在では「60日以内」に短縮するよう指針が見直されています。
今も90日の手形で支払いを行っている会社はご注意ください。

不当な給付内容の変更・やり直し(第4条第2項第4号)

特にテレビ番組の現場のように、プレビューの度に内容がひっくり返るような場合、気を付けておかねばならないのが、以下の項目です。
下請事業者に責任がないのに、費用を負担せずに発注取り消しや内容の変更、やり直しを行わせることは禁止されています。もし、正当な理由で取り消しや内容の変更を行う場合は、その内容を記載し、下請事業者の承諾を得た状態で必要書類を保存する必要があります。

下請法第4条より抜粋

2 親事業者は,下請事業者に対し製造委託等をした場合は,次の各号(役務提供委託をした場合にあつては,第1号を除く。)に掲げる行為をすることによつて,下請事業者の利益を不当に害してはならない。

一 自己に対する給付に必要な半製品,部品,附属品又は原材料(以下「原材料等」という。)を自己から購入させた場合に,下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに,当該原材料等を用いる給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に,支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を控除し,又は当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせること。

二 下請代金の支払につき,当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。

三 自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させること。

四 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに,下請事業者の給付の内容を変更させ,又は下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は,下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)給付をやり直させること。

親事業者が下請事業者に責任がないのに,発注の取消若しくは発注内容の変更を行い,又は受領後にやり直しをさせることにより,下請事業者の利益を不当に害すると下請法違反となります。
例えば、サブ出しVTRを制作中、CGを発注して編集ではめ込んだが、プロデューサープレビューでCGの内容を変更する必要性が出た場合がこのケースです。

当たり前の商道徳なのですが、まだまだ下請法が映像制作の現場に浸透しておらず、知らず知らずのうちに違反しているケースが後を絶ちません。気を付けたいものです。

以上が親事業者に対する11の禁止事項です。

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グロス発注は禁止

上記でご説明した「不当な給付内容の変更・やり直し(第4条第2項第4号)」から導き出される結論として、グロス発注は違法となります。グロス発注とは、「プロデューサーがOKを出すまで●●万円でやってくれ」「プレビューで変更が出る可能性があるが、それも含めて●●万円でお願いしたい」というオーダーの仕方です。「OKが出るまで」ということは内容変更が前提であるにも関わらず、料金は一定ということですので、そもそも工数分の料金を支払う姿勢が見えません。

このグロス発注は長年下請け業者を苦しめてきました。何度言われた通りのものを作っても「プロデューサーの指示で内容が変わった」と言われてしまい、何度改編しても、その改編のための料金は一切支払われないという事態が発生するからです。

映像制作会社やCG制作会社は最初にオーダーいただいた通りに成果物を作り、納品しているのですから、親事業者は、その納品済の成果物を制作した費用を支払う義務がありますし、作り直す費用も負担する義務があるのです。

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下請法に違反した場合

下請法に違反した場合、公正取引委員会の判断で悪質と判断された場合は以下のサイトに違反内容が公開されます。違反した会社が年度ごとに公開されていますので、参考までにご覧いただければと思います。

>>公正取引委員会下請法勧告一覧
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※1…これは弊社側の瑕疵が認められる場合に限ります。お客様都合によるご発注の内容変更の場合は下請法第4条第2項第4号に従い有償対応とさせていただきます。あらかじめご了承ください。

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