映像制作の現場からタイトル

※当コラムは旧サイトから移転して継続しているものです。ご了承の上お読みください。

修正と訂正・変更の違い

テレビ番組のCGを作っていて一番精神的にこたえるのが「修正」や「変更」です。ADさんから送られてきたコンテ通りにCGを作っても、ディレクターやプロデューサーのプレビューでひっくり返されて、CGの内容を変更する必要性に迫られるわけです。

プレビューは大抵プロデューサーとディレクターで行います。私らCG屋がそのプレビューに同席することはありませんので、プレビューが終わってから、ADから電話がかかってきて「修正をお願いします」とくるわけです。
ところが、これを「修正」と言われてしまうと、コンテ通りにキチンと作っているのに、まるでこちらに非があるようにしか聞こえません。
「修正をお願いする」という言葉には、「瑕疵や間違いがあるからそこを正してほしい」という意味があります。ところがこちらの作ったものに間違いはありません。コンテ通りに100%作っているんです。ただ、途中でお客様都合で内容をひっくり返されただけです。これは日本語として正しく「内容指定変更」などの言い方をすべきだと思います。

もしこれで私たちの間違いだというのなら、コンテは何のためにあったのかと言いたくなります。だってこちらが作ったCGはコンテ通りにできているし、クオリティだって要件を満たしている。それなのに「修正をお願いします」というわけです。こちらには全く非が無いのにです。

こういう時は「修正」ではなく「訂正」や「変更」ですよね。「訂正・変更をお願いします」が正しい日本語です。仮にも放送局の仕事をやってるのだから、ナレーションなども書くでしょ、なら日本語くらいはよく考えて使ってほしいと思う。まだ若いADならまだしも、イイ歳こいた中年のディレクターやプロデューサーにも、いまだに一定金額の中で何回でも訂正変更できると思ってる甘ったれがいるからいただけない。まったくどういう仕事をしていたら、それだけダテに歳だけとれるのかと不思議でしかない。しかもこういう輩が若いADを育てるわけですよ。育ちますかね?無理でしょ。

修正は無料ですが訂正や変更は当然有料です

言葉の意味はともかくとして、こちらに非が無いのに内容の指定を変更されて、それを無料で作り直すのはおかしな話です。このようなおかしなことは下請法でも認められていないのです。ところがこれだけコンプライアンス意識が高まっている映像業界なのに、まだ「変更も含めて予算の中で」ということをおっしゃる制作さんが多く、言葉につまります。こういう発注形態は「グロス発注」「コミコミ価格発注」と呼ばれており、下請法が禁止している行為です。

もちろん、発注段階でいただいたコンテや資料がしっかり出来ており、こちらに非があって間違いがあっての修正依頼なら、それは100%こちらのミスなのですから当然無料で作り直します。しかし指定通りの内容に作ったものを、後からお客さんの都合で作り直すのなら、これは「内容指定変更」ですから当然料金が発生します。
テレビ番組や映像などの「情報成果物」が下請法の適用範囲になかった昔は、どこまでやっても終わらない修正を数十回繰り返すというバカげた事もありました。こんな状態ですから優秀な連中からやめていくわけですよ。つまり非常識な修正作業の繰り返しこそが業界を腐らせる原因だったとも言えます。

例えばこれがビル建設の現場だったらどうでしょう。設計図通りにビルを作ったのに、建てた後で設計図に変更が入った場合はどなたの責任でしょうか?現場の責任でしょうか?設計の責任でしょう。

修正と変更の意味を間違っている

先ほどのビルの例えで言うと、設計図に変更があったのに「修正をお願いします」は違うでしょう。修正という言葉は、作り手に手違いがあって依頼者の指定通りになっていない場合などに使う言葉で、依頼者の都合で設計図そのものを変更する場合は「変更」です。
ところが、内容をまったく変更しているにも関わらず、「変更依頼ではなく修正依頼」を出して、その変更が無料だと思っている方がまだいます。これは本当に困る。説明に困るんです。
どこまで変更を加えても同じ料金の中でやれというのは下請法における「グロス発注」ですし、買いたたきの代表例です。以下のリンクから下請法について読んでほしいと思います。

>>下請法について

ディレクターの先輩の立場から

私はCGクリエイターでもありますが、その前にディレクターです。もう30年、映像演出の世界でメシを食っている。しかし私は仕事には厳しいけど、こういうおかしな仕事の振り方はしたことがありませんし、支払だけはマトモにやる。もっと言えば、マトモに関係各所に対して仕事を振るのがディレクターの仕事と心得ています。
またプロデューサーとして数多くの仕事をしてきた立場から言わせてもらえば、クリエイターの権利を守ることもプロデューサーの仕事でしょう。ところが自分の権利行使だけは立派だが、川下にいるスタッフたちの権利をないがしろにするプロデューサーの何と多いことか。安っすい金額しか拾ってこれないのは元請け会社の営業や予算交渉をしたプロデューサーの責任であって、下請で入っているスタッフの責任ではありません。ですので、「予算が安いからこれでお願いできませんか?」は無しでしょ。俺らの責任じゃないから、当然のことですが仕事に見合ったギャラを頂戴しますよ。当たり前。

まず制作さんたちが法律の知識をもっと持つべきです。というのも、制作会社というのは川上にいるテレビ局やクライアント企業と、川下にいる下請け会社やクリエイターたちの間を取り持つ立場です。当然多くの契約をこなす必要がある。
ところが下請法の知識も無ければ著作権の扱いも乱雑。これで司令塔たる制作の仕事をできるとは思えない。権利や義務の知識が無い映像屋など、適当な映像を引っ張ってきてつないで著作権法無視で配信しているユーチューバーとやってることは何ら変わらない。

日々の仕事に追われ、適当に言うことを聞く連中とだけ組んでいるからこうなる。何かの仕事のプロを自認するなら、最低限度の知識は持っていて然るべきです。特に義務と権利についてはプロとして最低限度の資質というものです。そういう資質のない人は業界を去るべきだ。まあ、放っておいても消えますが。

テレビ局は法務がある分ちゃんとしてる

厳しい意見を言いましたが、これが今のテレビの現実です。テレビ局はさすがに法務部があるので下請法違反というのはしませんが、制作プロダクション(制作会社)へ降ろす費用が少ないために、制作会社がマトモに下請法を守ってたら倒産してしまうという危険性もある。で、CG会社やイラスト会社、技術会社などにグロス発注をやらかすことになるのです。もっと制作会社に払いましょう。また、制作会社もグロス発注みたいな真似はやめて、ちゃんと変更依頼分は別途支払いましょう。
そしてCGやイラストでテレビに関わっている多くの同業者さん。ウチと足並みを揃えて下請法を守るようにお客さんに理解を求めましょう。そうしないと映像業界に明るい未来はありません。

>>映像制作の現場からTOP

メールでのお問合せロゴ