パニックを防ぐためにまずは正確な情報を
新型コロナウイルス(SARS-CoV2)が猛威を振るっていますが、どの番組を見てもウイルスそのものがどう恐ろしいのか?その実態がまるで見えないという状況です。
情報を得ようとしてテレビの特集番組を見ても、例えば「ウイルス」「流行」という言葉は山のように使われていますし、感染を防ぐためにすべきことは紹介されているのですが、そもそも論としてウイルスとは何か?なぜウイルスに感染すると病気になるのか?その具体的な実態の説明が少なすぎるように感じるのです。現象としての病理病態が理解できた上でその防止策を聞けば大抵の方々は自分で判断することができるはずですが、前提条件である「なぜウイルス感染が起きるのか?」というメカニズムの説明が欠けて新型コロナウイルスの恐ろしさや蔓延の状況ばかり扱っているため、視聴者としては「なんとなく恐ろしい」という感想になり、マスクやトイレットペーパーの買い占めなど、集団ヒステリーやパニックといった社会現象が起きてしまうのではないでしょうか?
メディアや情報産業に携わる者として、情報伝達の手法を今後改善していく上でも今のこの状況をよく考えることはとても大切です。悪意は無くても言葉先行の煽り報道にも等しい状況に結果としてなってしまっているのではないか?少なくともそうした自戒は必要かと思います。
コロナウイルス感染のメカニズムをミクロな目線でCG化
弊社でもこれまで感染症内科の分野の映像作品を数多く手がけてきました。その中でウイルスやバクテリア感染のメカニズムについてCGによる可視化を行いつつ度々触れてきましたし、他社のコンテンツ向けにCG素材単体の制作も数多く行ってきました。しかしこれらは販売用ビデオソフトや展示映像向けのもので、テレビなどマスメディア向けのものではありませんでした。多くのテレビ番組にメディカルCG動画素材を供給している弊社でも、こうした感染メカニズムのような題材を扱うCG素材をテレビ局に一度も供給したことが無いのです。
私たちの手元にはウイルスによる感染症をミクロな目線で見せるだけの素材が山のように存在します。しかし、これらはあくまでCGモデリング素材の蓄積でしかなく、放送局が積極的にこれらをテレビ番組に活用してこそ初めて広く視聴者のお役に立てるのです。これらの弊社資産を活かさない手はありません。
そこで私は「必ず役に立つはずだからぜひこれらのCGモデリング資産を活用してほしい」というメッセージをテレビ局や番組制作会社の皆さんにお送りしています。新型コロナウイルス感染のメカニズムがわかれば、どうやったら感染の可能性を低くできるか視聴者の皆さんが自力で考えることができるようになります。そのために役立つのが私たちが持っているCGという描画手段です。
すでに手元にある資産(モデリングデータ)をアレンジして活用するので比較的安価にCG動画を制作することができますし、そこまで突っ込んだ内容を扱う番組が少ないため視聴率も期待できます。
視聴者を信用する姿勢
いつも思うのですが、テレビ番組の制作スタッフはもっと視聴者のインテリジェンスを信用するべきだと感じています。視聴者はバカではないのですから、ちゃんと段取りを追って説明さえできれば必ずどのような情報も理解してくれるはずなのです。そもそもテレビというメディアの腕の見せどころは「難解な情報をいかにかみ砕くか」にではないでしょうか?ところが「この内容はちょっと突っ込みすぎだよね」などとプロデューサーが言ってしまうものだから、ディレクターも難解な情報をいかにかみ砕くか?という映像演出の基本を学ぶ機会に恵まれていません。
私はよく演出の基本のひとつに「地べた感」という言葉を使います。地べた感というのは視聴者の誰もが共感でき理解できるところを立脚点として番組を構成するという演出手法ですが、今の多くの番組は地べたを低空飛行するばかりで、その上に積み上げるものがありません。
本来は上に積み上げていくからこそ番組に「へー、知らなかった!」「ほー、そんなことがあったのか」という「へー・ほー感」が生まれるのですが、タレントが昨日今日の日常の経験をダラダラとしゃべっているだけでは、それこそ共感(地べた感)は得られても、へー・ほー感を生み出すことはできません。それは果たして意味のある番組と言えるのでしょうか?
確かに地べた感の高い番組は視聴者を取り込むきっかけにはなります。しかし地べた感しかない低空飛行番組は現状の視聴者を取り込むことに精いっぱいで、「善き視聴者を育てる姿勢」が欠けている気がするのです。「これはわかりにくいネタだからカット」ではなく「いかにわかりやすく説明するか」を考えるべきなのです。
ウイルス感染という情報を扱うにしても、「こうしたほうがいい」「こういうことは危険だからやめましょう」だけではなく、「一体それはなぜ?」まで含めて扱い、視聴者が自分で判断できるよう、知識を的確に伝えることが重要なのではないか?そう思えてならないのです。「わからないからカット」ではなく「わかりやすく説明する」のです。
パニックや集団ヒステリーの原因は無知
マスクが高額で転売される、トイレットペーパーが店頭から消える、今回のコロナウイルス蔓延を巡るこうした現象が起きるのは人々が不安を感じているからです。そして不安の原因は情報の欠如です。ウイルスが何なのか知らないのだからわからない、わからないからどう対処していいかわからない、どう対処していいかわからないから怖い。これが実際のところではないでしょうか?
こうした時に一番がんばらなくてはならないのがテレビをはじめとするマスメディアです。コロナウイルスという敵の正体がつかめれば戦略を考えることができるようになります。今こそ視聴者に戦略を自力で練るための基礎となる情報を正面から扱う番組が必要なのではないか?私はそう思っています。