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2015/04/20公開
当記事の「フィルムとデジタルの解像度」の部分についてはあまりに反響が大きく、補足説明などをする必要性に迫られました。そこで35mmフィルムとデジタルの解像度について別記事を作成いたしましたので、そちらもあわせてご覧いただければと思います。
4K解像度を35mm映画フィルムの解像度と比較すると…
↑各動画フォーマットの情報量
久しぶりの投稿です。最近忙しくてなかなか記事を書けません。お許しください。
さて、時代の流れというものはすごいもので、つい最近HD(ハイビジョン)が映像業界で話題となっていたと思ったら、もうHDより上の規格が普通になろうとしています。
今度の4Kっていうのは、HD(ハイビジョン)の4倍の画素数を売りにしているフォーマットで、狂ったように画素数が多いです。その数はなんと830万画素。ちょっとしたデジタル一眼レフですよね。私が普段使っているデジカメはニコンのD40とD7000です。D40なんか600万画素しかありません。それでも十分A4なんかにプリントして普通に美しいですから、830万画素も動画に必要なのかどうか皆目見当がつきません。
HDが登場したとき、「35ミリ映画フィルムに匹敵する高解像度」というのが売り文句でした。少なくとも私がやっていたハイビジョン実験放送時代の番組のときはそう技術屋が言っていたのを覚えています。しかしこれには諸説あり、フィルムは6000万画素に匹敵するとか、1000万画素以上に匹敵するとか、はたまた、HDと同程度の200万画素クラスだとか…もうわけがわかりません。
とはいえ、大体においてフィルムとデジタルを比較することが間違っているように思います。最終的に上がってきた完パケを視聴者が目で見たときにどう見えるかが肝心で、私の個人的な感覚(システム画質の総合評価)で言うと、映画用35ミリフィルムの「システム全体としての精細度」というのは、おおむねHDと似たようなものなんじゃないかと思います。せいぜいHD+αというところでしょう。
>>4Kの解像度についての詳細
理想的な解像力を発揮することが困難なフィルムの映像
フィルムそのものが理想状態でどこまで記録できるかは別の話だから置いといて、精細度というのは撮影に使用するカメラ(失礼、フィルムの場合は”キャメラ”でしたね・笑)から上映する映写機までのシステム全体で決まります。”キャメラ”一つとっても、レンズがどの程度キレるかもありますし、”キャメラ”の整備状態によってはフィルム面に正確にフォーカスしているかも疑問です。とにかく理想状態でフィルム面に結像させることなんて至難の業だということです。
フィルムを知っている人ならわかると思いますが、フィルムって本当にやわらかいです。ぐにゃぐにゃです。”キャメラ”の中で、そのぐにゃぐにゃしたものをガチャガチャと歯車みたいなもんで一コマずつ送って、シャッター開けて結像させるのです。それを毎秒24コマですよ。キレイにフィルムが送られていればいいですが、そんなの無理です。一コマずつおくられる度に、ブルブル振動しますよ。”キャメラ”のローリングシャッターからの振動もありますしね。昔の映画を見ると、上下に画面がふるふると微妙に震えているのを見ますよね?あれ、”キャメラ”や映写機などに機械的な遊びがあるから仕方ないんです。今の機材はかなり良くなっているのですが、それでも原理的、物理的な振動のようなものは消せません。つまり、「フィルムをあまり美化しすぎないように」ということです。
安定しているデジタルの映像
反面デジタルはいいですよ。振動がほとんどありません。カメラの撮像素子はきっちり固定されていて、そこに結像させるのですから安定しています。理想状態に工場出荷段階でかなり近づけられる。フィルムは撮像素子そのものが1秒に24コマごと動くのです。振動も発生しますよ。
また最近のデジタルシネマカメラはメモリー記録がほとんどですから、記録系の振動もありません。基本的に剛性が高いのがビデオの良さです。これは画質に直結します。
例えば映画館。2015年現在、かなり4Kプロジェクターが普及したとはいえ、ほとんどの映画館はまだまだ2Kのプロジェクターでデジタル上映しています。2Kっていうのは、ほぼHDです。HDだというと、ビデオのことを「電気紙芝居」と散々揶揄してきたフィルム業界の先生方が買わないだろうから、あえて2Kという言い方で逃げて売っているとしか思えないネーミングなのですが、この2Kは、ほとんど概ねHDと同等解像度です。あえて言うなら横に少し長っ細いです。というのもフィルム作品の縦横比を考えると、HDの16:9よりは横幅があったほうがシックリくるということでしょう。
とにかく映画館での上映がHD解像度なんだから、それで十分と言っているようなものです。
一応、映画の2Kの良さを挙げるとしたら、階調表現でしょうね。10bitは最低あるようですから、Blu-ray(8bit)などに比べるとかなり階調が豊かでグラデーション部分の表現が美しいです。ちなみに8bitと10bitだと、放送用のしっかりとしたモニターを使うと誰でも見ればすぐわかります。そのくらい階調表現が違います。
こうした階調表現能力の高さはグラデーション表現の精細さによって画の奥行感にもつながりますし、そういう意味では映画館の2K上映システムは優れていると言えるでしょう。
電気紙芝居を撤回せよ!
さて、脱線してきたぞ。このまま脱線しましょう。テレビマンとしては、映画屋の大先生方に言いたいことが山のようにあります。
昔、映画の人たちにテレビは「電気紙芝居」と揶揄されていました。ところがシネアルタやバリカム登場以降、映画もビデオで撮影することが一般化しています。あきらめが悪いと感じるのが、「2K」「ファイル収録」という言い回しです(笑)
ここには「俺らがやっているのはビデオじゃないぞ!2Kファイルだ!間違ってもハイビジョンビデオじゃないぞ!」「カメラじゃないぞ!”キャメラ”だ!!」という無言の嫌な感情を感じます。さて、私は声を大にして言いたい。
「お前らが使っているデジタルシネマ”キャメラ”はビデオカメラ以外の何物でもない!」
そう、毎秒24フレームで撮影できるビデオカメラ。それが今のデジタルシネマカメラの正体です。しかしそれでいいじゃないですか。認めましょうよ。電気紙芝居もいつの間にかここまで発展してきたのです。SONY、Panasonic、池上通信機、などなど、様々な電気紙芝居屋が「最良の映像を多くの人に届けたい」という思いから、基礎技術開発を積み重ねてきた成果が、今のデジタルシネマカメラです。
デジタルシネマというと、ジョージルーカスが『スターウォーズ』で使って、一躍デジタルシネマの生みの親のように言われていますが、それは違う。ジョージルーカスがいくらがんばっても、カメラを開発することはできません。何度も言いますが、電気紙芝居機材メーカーの多くの技術者が、電気紙芝居時代に努力して積み重ねてきた技術を映画屋がひょっこり現れて借りているだけです。もっと言うなら映画屋さんに電気紙芝居機材を浸透させるためには、ジョージルーカス大先生を生みの親として持ち上げておいたほうが商売的に有利だという考えが機材メーカーにあったかも…
とにかく、同じ映像関係者として技術というものへの畏怖があるなら、電気紙芝居技術屋への畏れも持っていてほしい。
私は実際に長年この「放送規格」という電気紙芝居最高峰の厳しい水準が、どれほど真剣に守られてきたかを見てきました。特にテレビがアナログだった時代は本当に厳格な世界でした。
映画が職人芸と言われるのは理解できますが、テレビにも多くの職人がいました。彼らの技術はまさに「カン」の世界で、習得するには長年の経験が必要なものでした。
電気紙芝居という言葉、私みたいな電気紙芝居ディレクターからしたら、本当に捨て置けないですよ。正直面白くない。誰だろうね、こんな下らん呼び方を最初にしたやつは。同じ映像業界の中で仲間を敵に回すような言い回しは撤回してほしいもんです。今後仲良くやるためにもね。
で、4Kカメラを買ってみた
と、恨み節はここらでやめておいて。4Kカメラとやらを買ってみました。正直に言うと、うちの会社はほとんどの作品がHDが完パケだから、4Kを買う必然性はなかったのですが、時代がそろそろ4Kというキーワードを欲していますし、会社として一応4Kは売らないとならない「言葉」ですし、客寄せパンダにしかならないのは承知の上で正直趣味として欲しかったので、半分興味があって買いました。
買ったのはFS7というソニーさんの製品です。ライトな感覚のコンセプトから生まれた、なかなかのカメラです。
結論から言うと、「まあ、使えないことはない」というレベルの品物ですね。使い方によっては悪くない雰囲気のある映像を撮影できるので、持ってて損はありません。画質は相当なものですよ。ポテンシャルは感じるし、価格も生粋の放送用ENGと比べたら安いので興味があれば一台買ってもいいのではないでしょうか。
カメラの見た目の雰囲気も悪くない。シネマカメラの雰囲気って、ENGと少し違っていていいんですよね。やる気にさせてくれるというか、撮影するために必要なオプションをビルドアップするとゴテゴテしててプロから見てもプロっぽい(笑)
フォローフォーカスが必要なのは理解できるし、なかなか便利なのですが、マットボックスってやつは、どう役に立っているのかわからない(笑)日よけ???そんなにハレーション起きないでしょう(笑)フィルターなんかデジタルでは後処理がメインだからあまり使いませんし、これはもう「ヤル気が出る雰囲気のために存在するパーツ」だな、きっと。。。
ENGと比較すると
さて、生粋のビデオ屋なら気になるところでしょうが、「デジタルシネマカメラってENGと比べてどうよ?」ということでしょう。見た目は完全にENGの負け…じゃなかった…カメラそのものの完成度という意味なら、間違いなくENGのほうが断然上です。電気紙芝居の勝ち!!
どんな環境でも回る図太さは、ENGならでは。しかもがっちり剛性が高く、いかにも頑丈。ヤワな部分が一か所もありませんものね。完全に鈍器です(笑)
それにENGはレンズがすごいです。ズームレンズでこれほどの性能を出せているのは奇跡ですよ。シネレンズの単玉なんかと比較するとよくわかります。いわゆるシネプライムレンズ(単玉のことをプライムといいます)なんか画質云々という前にオペレーションとして問題があります。技術的な難易度で言えばTVズームにかなうレンズはありませんね。一本でほとんど撮影できてしまうのですから。しかもこの画質です、キレがある。シネプライムで有名な某海外メーカーさんにズームでフジノンやキヤノンと同等のTVズームが作れるだろうか…(おっと、いかん)
なんならENGカメラにlogガンマを搭載したら、そのままで通用するんじゃないかな。そもそも4Kで一般的な35ミリサイズの撮像素子はフォーカスがシビアすぎて難しすぎる。ENGの2/3インチはちょうどいいボケが出て扱いやすいんですよね。大体、背景ボケりゃいいっていう、わけのわからんボケ至上主義者もたくさんいるから、突っ込みたくなるんだよな。見ているこっちが恥ずかしくなる。
電気紙芝居屋の伝統的こだわりが生んだENGスタイルのカメラには、なかなかの魅力がありますよ。シネと比較すると、その魅力を再発見できますよね。どんな動き回る被写体でもドンぴしゃりと撮影できる。これこそプロが求める信頼性です。
絶対的な画質の比較ですが、解像度を抜きにして、最新のENGには必ずといってよいほど搭載されているシネガンマの画なんかを見ると、ENG、なかなかがんばっていますよ。結構いい線いってると思います。映像ってね、解像度や階調だけではありませんよね。全体の雰囲気です。感性の部分が大切。そういう意味では、限られたデータ量の中でどう美しい映像を見せるか、昔からビデオ屋たちはそれを追及してきました。これはみなさんもっと評価して差し上げても良いのではないでしょうか。
うちはPanasonicのカメラをメインに使っています。DVCPRO-HDなんか解像度は大したことはありませんし、階調も8bitですが、なんというか、しっとりした映像なんです。特にPanasonicのCCD時代のカメラは美しいですね。だからHPX555なんか、手放せなくなっています。決して高いカメラではないのですが、このカメラの画を好きなカメラマン多いですよね。わかりますよ、その気持ち。
下のリンクから読めるページには書いたのですが、うちの場合はしばらくは4KカメラはHDのENGと使い分けの方針でしょうね。
要は道具ではない
今はまだまだデジタルシネマは過渡期です。テレビの文化と映画の文化が交差したばかり。これからまだまだ化学反応が起きるでしょう。楽しくなってきますよね、きっと。
昔、映画キチガイだった私ですが、よく言っていたのは、「何で撮っても映画として作ったものは映画だ」という言葉。だから私は若い時からビデオ撮影メインでインディーズムービーやっていました。16ミリもやってみたけど、結局、EDベータのほうが映像として美しく感じてしまう。そういう感性でした。EDベータのカメラは撮像素子が3分の2型の2板式(輝度用と色用で分けて2枚のCCDを使う方式)だったので、深度も適度で好きでした。好みでいうとパンフォーカスにしかならない8ミリフィルムより好き。
大学の映画サークルには「映画はフィルム」という人がいて、よく議論を尽くしました。今となってはなつかしい。あの頃議論したそのままの時代が、今になってこのように実現するとは。
要するにテレビはテレビ。フィルム撮影してもビデオ撮影しても、テレビはテレビ、そういえる番組を作ることですよね。逆もまたしかり。フィルムでなくCCDやCMOSで撮影しても映画として制作したものは映画。結局カメラは道具に過ぎないのです。
当記事の「フィルムとデジタルの解像度」の部分についてはあまりに反響が大きく、補足説明などをする必要性に迫られました。そこで35mmフィルムとデジタルの解像度について別記事を作成いたしましたので、そちらもあわせてご覧いただければと思います。
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