映像制作の現場からタイトル
2020/12/02公開

見積依頼の難しさ

最近では数社の映像制作会社に同時に見積依頼を流してもらえる相見積サービスを提供するサイトも存在します。一見便利ですが、(すべてではありませんが)とんでもないサイトも多いのでご注意ください。これらサイトの多くは映像関連の専門家が作ったものではなく、IT系の方々が作っているサービスで映像の専門家は介在しておらず、映像制作現場の実態を理解しているとは到底思えないものばかりです。相見積サイトの老舗と思われるところでもその歴史はせいぜい一桁年です。勝手にうちの会社を掲載して見積依頼を飛ばしてくるサイトもあるので、正直迷惑しているという事情もあります。というのも弊社は特段の事情が無い限り相見積案件はすべてお断りしているのです。

相見積というのは、複数の会社に同一の仕様書を投げて見積を複数取り、その中で業者を選定するという方法です。一見公正公平なように見えて、こと映像の制作においては実はまるでアテになりません。
このサイトでも何度も私は説明していますが、相見積というのは同一条件で見積を比較しなければ意味を成しません。一般的にはこの同一条件というのは仕様書で指定するのですが、映像を仕様書で同一条件にするのは不可能。ちょっと学術的な知識のある方なら当然ご理解いただけると思うのですが、映像のクオリティを数値化できない以上、どのように同一水準を設定するのでしょうか?

ゆえに映像の制作において相見積は成立しないということです。

>>参考~相見積について

例えばネジなら「材質」「形状」「公差」くらいの情報が仕様書に書かれていれば、同一クオリティで同一製品を定義付けられるでしょう。ところが映像というのは、例えば「企画内容」「タイトル数」「制作期間」「クオリティの想定」あたりを仕様書で定義しても、同一のものになる可能性は皆無です。仕様書を読んで各制作会社が思い浮かべる作品の企画や姿は千差万別。特に「クオリティ」を紙の上で定義するなんて不可能で、例えばカメラ台数や編集設備などを決めておいてもスタッフがヘボならダメなものになるし天才を集めればものすごく高いクオリティになります。そもそもこんなワンオフ的な仕事でクオリティの定義を書面で行うなど無理。ということで仕様書による同一条件の提示が不可能なので相見積も不可能という当然の帰結です。

実は私もシレッとこうしたサイトにお客のフリして見積依頼を出してみました。ところが記入する項目がおかしい。まず「企画内容が決まっていない」という選択肢があり、もしこれに●が付いていたら、見積など書くことはできません。そもそも企画内容がある程度見えない状況で見積を依頼するなんて不可能ですし、どれだけ愚かな行為かご理解いただけるのでは?
これはつまり「何をするかわかりませんが値段だけは知りたいのです」という意味ですよね?値段を聞くなら、せめて何をするか?位の基本的なことは決まった状態でなければ相場すら聞くことはできないでしょう。あまりにバカバカしく、普通の映像のプロなら不愉快に感じるはずです。

映像の見積を出せれば立派なプロ

映像の見積というのは正確に出すにはかなり時間がかかる作業です。予算管理を行うプロデューサーが映像作品のクオリティ感や演出の度合いなど、完全に「完成した映像が見えている」という状況にしないと正確な数字など出ません。見えている完成予想の映像を前提にして、揃えるスタッフのランクや、仕上がった映像の権利関係まで含めてどうクリアするか?などお客様からまったく見えない情報も加味した上で計算するものですので、たかが見積と思うかもしれませんが、この業界では「見積が書けたら一人前」と言われるくらいの仕事なのです。

>>参考~映像制作の費用/見積/料金について

ところが見積同時依頼サイトの運営者は映像の素人さんであるIT業者さんですから、映像のことなど何もわかっていないので、一体どんな情報が揃っていれば映像制作全般の見積をある程度正しく出すことができるかを知りません。そのため見積サイトがお客様に書かせる聞き取りシートページの質問は的外れもいいところです。そしてそこから流れてくる見積依頼メールというのは、当然惨憺たるものです。このような的外れな見積依頼メールに丁寧に真面目に対応するのは、よほどのお人よしか暇人のどちらかです。どっちにしても普段から喉から手が出るほど仕事が欲しい三流ですよ。頼まないに越したことはありません。

私の個人的感想ですし、弊社のように勝手にこうした相見積サイトに掲載されている会社さんも多いでしょうから該当する会社さんは怒らないでほしいのですが、こんなサイトに登録している映像制作会社は、まったくわかっていないか、それとも見積ではとにかく安く金額提示でお客を釣って、追加料金で利益を出そうという確信犯かのどちらかです。少なくともお客さんにそう思われる危険性は確実にある。
また、こうした相見積サイトを運営する会社も不誠実で、映像制作会社に断わりも無く勝手に会社の情報を適当にサイトから拾って掲載しています。弊社も複数の相見積サイトに掲載されていますが、こちらから依頼して掲載しているものは皆無です。ところが連絡先メールアドレスなども公開されているのでスパムメールは増えますし、うちはそれで公開アドレスとお問い合わせフォームのアドレスを変える羽目になりました。もういちいち削除依頼を出すのも疲れるので今は放置していますが、あまり迷惑するようなら然るべき対処を検討しなければならないと思います。

正しい見積依頼の出し方

正しい見積が欲しいなら、まずこうした相見積サイトを使わないことです。私の印象では相見積サイトを使って見積依頼をしてくるお客様というのは、これまで映像を作った事が無い会社さんばかりです。映像の会社と取引が無いのだからちゃんと電話なり営業を呼ぶなり、キチンと学んでから相談すれば良いのです。ところが何でもかんでも安近短にググって済ませようとするから、こうした相見積サイトにひっかかる。

過去に映像の制作依頼を出したことが無い場合、まず優先して行うべきなのは業者選定です。(そもそも「業者」という呼ばれ方はクリエイターは嫌いですが…)

資料請求し、電話で話し、ウェブを見て、信頼できるプロをちゃんと探すことです。映像制作会社ほど凸凹の多い業界は他にありません。まずは振り先を絞ることです。同じ値段でも出来上がる映像のクオリティは雲泥の差ですから。
理想を言えばそこそこの大手でテレビ関係を手掛けている会社が良いでしょう。番組やCMを手掛けているような会社のスタッフなら大きな現場から小さな現場まで経験則がありますし、「YouTubeしかやったことがありません」というような素人をつかむことも無いはずです。それにこうしたちゃんとした映像制作会社は徒弟制度の中でスタッフを一人前に育てる教育体制がありますので、映像制作の基本を学んでいます。
大きな現場を回せるというのはとても大切。企画の規模が大きくなっても対処を知っているので対応可能ですからね。これは大きい。

相見積サイトなどを使う安近短な方法ではなく、ちゃんと資料に目を通し、実績も含めてよく見ることです。そして依頼先をある程度絞ってから見積依頼を出すことで、おかしな腰掛け会社をつかむ危険性を減らすことができます。ぜひ賢い選択をお願いいたします。

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