映像制作の現場からタイトル
2022/5/3公開

CGとイラストの請負業の難しさ

元々を言えば、私はテレビ番組のディレクターでありプロデューサーです。そっちをまず徹底的にやって勉強し、それから一般企業様向けの広報映像の制作会社を設立して、テレビ業界から一般企業様にその軸足を徐々に移してきたという経歴です。
三次元CGやイラストがいかに映像にとって必要か痛感していたため、数千万という、私にとっては多大なコストはかかりますが、私財を投げ打って三次元CGやイラストの部門も持つという、いわば総合映像プロダクション(もちろん技術やポスプロも含む)を一気に作ったという経緯です。CGは2000年頃から導入していましたし、AdobeのノンリニアやデジタルENG撮影機材も20世紀のうちには既に導入していました。まだテレビ局はデジタルベーカムやD2でリニアのオンライン編集をやっていた時代です。その頃から「ノンリニア+ファイルシステムが今後のメインストリームになる」と確信し、先にやっていたという感じです。(当時はまだウチもカメラはテープが残ってましたがね)
長い目で見ると、これら撮影・編集・CG部門は持ってたほうが有利ですし、ハードウェアと人員を揃えたからといってすぐに仕事をバリバリできるわけでもありません。ノウハウを蓄積するために時間も10年はかかるという判断から「善は急げ」で若いうちから法人を作り、時間をかけて丁寧に今のシステムを構築してきました。
始めのうちは、CGやイラストをやると周囲に言うと「社長だからどうせ社員に任せるんでしょ?」と、多くの方々に言われましたが、私はその反対の方法を選びました。そのやりかたじゃいつまでたってもダメ。失敗事例を数多く見てきましたよ。社長がカネだけ出して設備だけ揃えても、社長本人に経験と知識が無ければムダ金を使って終わります。ですから私は全部、「まず自分でやる」「自分が勉強する」ということから始めました。
結果としてはあの時に思い切って今の形を目指して再スタートしたのは正解だったと思っています。

テレビ番組のCGは請けたいのに請けられない状況が多い

ウチで作るCGやイラストは、ウチが一般企業様から受注して制作している映像作品で使うものも当然ありますが、在京キー局など放送局や、番組を制作する制作プロダクションからも多くの仕事を受注し、CGやイラストを提供する下請けをしています。
つまり、ウチは「映像制作プロダクション」として数多くの映像コンテンツを制作する会社でありながら、同時に他の同業他社である映像制作プロダクションからCGやイラストの下請をする「デザイン事務所」でもあるわけです。どっちの立場もわかるので、ウチのCGやイラストの仕事は、映像制作プロダクションさんから可愛がってもらえております。
ウチは急ぎの仕事が得意でして、テレビ業界の常連さんには私の携帯をお教えして24時間体制でいつでも仕事の相談を受け付けるようにしているんです。急ぎの時はこれまで蓄積してきた3Dモデルを駆使して急いでCGを作って何とかするので、テレビ関係者にとっては便利でしょう。
一応テレビ業界では「間に合わない!困ったらデキサへ」という感じで先輩から後輩に私の携帯電話が受け継がれているようで、いろいろなテレビのスタッフさんから電話をもらいます。そのほとんどは「明日のうちにCGが欲しいのですが」といった、かなり時間的に深刻な状態になっている相談です。ウチが断ったらもう相談できる相手がいない。ワイドショーなんか、「明日の朝までに何とかしてほしい」なんて相談もいただきます。
とはいえ、最近は電話を頂戴してもほとんどお引き受けすることができない状態。お引き受けしたいのに、できなくなってしまっているんです。その理由はいろいろありますが、ます第一に契約が成り立たないからです。

テレビの現場人が契約の概念や下請法を知らない

契約というのは仕事の内容と金銭面でのバランスが相互に納得できてはじめて成立するものです。一方的な発注や受注など考えられません。法的にもテレビ局や制作プロダクション、そしてイラストやCGを制作するデザイン事務所などは「下請法」という法律によって厳密にその契約に必要な要件が決められているのです。
私らデキサがCGやイラストで番組に参加する場合、番組制作プロダクションやテレビ局からすると私たちは下請けの外部会社ということになりますので、お互いに下請法を守る義務があります。これは私が言っているのではなく、国がそう定めているのです。守ってなければそれは「法律違反」です。

ところが、この下請法をまだ知らないテレビ関係者が多いのです。「なんとなく仲良くやっていれば大丈夫」くらいの意識なのでしょうか。自分が言っていることが違反行為だということすら理解できていないような方も見受けられます。そもそもこれだけコンプライアンスという言葉が一般化し、各企業も危機管理の一環としてコンプライアンス問題に真摯な姿勢で向き合っている今の時代に、なんて前時代的な感覚なのだろうと呆れるばかりです。

テレビ局に関しては、さすがに法務部がしっかり働いていますし、プロデューサーやディレクターはインテリジェンスも高い上に相応の研修を受け、さらに言えばその研修の重要性を理解しているのでしょう。放送局に限ってはこの下請法にまつわる問題は弊社との間で起きることはありません。つまり法律を意識した上で、ちゃんと大人同士の会話が成り立っているのです。これが一般的な社会人の常識というものです。
ところが制作プロダクションに関しては、まだまだ、というより全然です。上のプロデューサーから末端のADまで、下請法を理解している人はほぼ皆無という次元です。

下請法という法律については以下のページをご参照ください。

>>映像制作における下請法についての解説

上記ページで詳しく触れていますが、ここでも少し簡単にご説明しますと、テレビ番組や映像コンテンツは「情報成果物」という分類になります。下請法という法律は世の中のすべての業種を対象としているわけではなく限られた業界にのみ適用されるのですが、この「情報成果物」というのも下請法の適用される業種に含まれているのです。
下請代金支払遅延等防止法ガイドブック2010では、下請法とはどんな法律か?というと、テレビ局や番組プロダクションなど仕事を発注する側を「親事業者」、仕事を請ける側を「下請け事業者」と定義して、その「関係の対等性・取引の公平性」を担保・確認する法律です。
以下の公正取引委員会のページに良いPDFガイドブックがありますので、ぜひお手元に置いておくことをお薦めします。

>>公正取引委員会「コンテンツ取引と下請法」

禁止されている行為は山のようにあります。受領拒否、支払遅延、代金減額、不当返品、買い叩き、報復行為、不当変更、その他諸々ありますが、代表的なところでは上記です。

下請法違反のオンパレード

一番多い違反が、下請け代金の減額、いわゆる「買い叩き」というやつです(4条2項4号違反)。

まず本来は書面を発行する義務が親事業者にはありますが、この書面(契約書や発注書等)を作ってくれる制作プロダクションがありません。ほぼ皆無です。ですから受注した段階では金額も決まっておらず予算もわからない場合が半分以上。
こちらは1人工5万円から6万円という相場なので、当然かかった費用を請求するわけですが、それを「高い、半分しか予算が無い」などと納品してから言ってくるわけです。予算がわかってたなら先に教えろと言いたい。他人に徹夜で仕事をさせるだけさせて無理難題を解決させておいて、後でカネを払わないというのはすごい根性をしていると思う。中には200万の請求に対して、費用が100万しかないという状況が発生することもあります。
正直、こちらで契約書を作りたいのですが、契約書を作れば作ったで制作進行の対価としてのお金はかかるし、それを支払ってもらえるとも思えない。
そもそもお金が無いなら発注しなきゃいいでしょ。それと「予算がオーバーして厳しいから、何とかオマケしてくれ」というのも制作プロダクションの言い訳にすぎません。なぜならかかった分は制作プロダクションがテレビ局に請求すれば良いだけのこと。そこを交渉するのがプロデューサーの仕事でしょう。こちらは納品した、だからカネをもらう。当然の要求をしているに過ぎません。

不当変更も多いですね。CGなどを作るために資料を書いて送ってくるわけですが、それ通りに作っても「やっぱりこうするわ」と、最初の資料や発注書にはまったく書いていないことを「修正です」といって新たな指定として送ってくるのです。
いや、それは「修正」とは言いません。新しい条件が加わっているのですから「変更」ですね。後で条件が加わっても「修正」という扱いをするわけです。でも、こちらに落ち度があったわけではなく、あくまでお客さんのほうから「思いついちゃったから内容を変えたい」ということでしょう?それは「変更」による「作り直し」なので、また別計算でお金が当然かかります。

支払遅延も多いですね。法律では「納品日から起算して60日以内」の支払を義務付けていますが、当たり前に90日とか70日とか決めてる会社が多い。指摘したら「何言ってるの?」くらいの扱いですよ。無視されました。自分の無知を知らない無知ほど恥ずかしいことは無いです。一応は制作プロダクションなのだからインテリジェンスを売りにする会社が、ブラックな上に下請法という自分らの仕事に関連する法律のことすら知らない。

基本の感覚がうちとお客さんでズレているから話し合っても平行線。

テレビ業界が下請法適用範囲に入った経緯

テレビ局はこの下請法の重要性を理解しています。というのも、下請法の適用範囲に情報成果物が加えられてしまった原因は、テレビ局と番組制作会社の間の軋轢が大きかったのを知っているからです。つまり、大昔のテレビ局が、制作プロダクションに対して少しやりすぎてしまったわけですね。
今からかなり昔の話になるのですが、平成2年(1990年)1月から平成3(1991年)年7月にかけて,公正取引委員会がテレビ放送事業者107社及びプロダクション502社を対象にして、書面調査をしたのです。調査が始まったきっかけは私の耳にしたところでは、テレビ局との厳しい上下関係で疲弊した大手番組制作プロダクションが公正取引委員会に相談したことが事の始まりと聞いています。噂話程度のことだったので真偽のほどはわかりませんが制作プロダクションが作る日本一大きな非営利団体である全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)の加盟会社と聞いています。
当時は私も大学在学中の学生バイトの時代からテレビ業界のど真ん中にいて、まさにADをやっていたのですが、「AD残酷物語」などという言葉が生まれた時代でした。当時はバブルの残り香が残っていましたし日本中がイケイケ。CMでは「24時間働けますか?」というフレーズが流れていました。
テレビがメディアの王様でしたし、ベビーブーム世代の若者がADとしてどんどん制作プロダクションにいくらでも入ってくる時代でした。高学歴で優秀な学生が山のように集まったので、残酷な(というより現実的な)言い方をすれば、やめても換えはたくさんいたのです。先輩も後輩には「広告代理店とテレビ局は神様」「命より素材(テープ)が大切だから死んでも素材を守れ」と徹底した悪い教育が行われていた状態です。
当時の雰囲気は、良い言い方をすれば熱気に溢れていましたが、私も4日寝れなかった事もありました。外に出ると太陽が変な色に見える状態です。一週間丸ごと帰れない、風呂も入れない、これでは法律もへったくれもありません。朝は灰皿の掃除、先輩のコーヒーの好みを覚えて出社してきた先輩に好み通りのコーヒーを淹れる。「メロンパン買ってこい、お前のセンスでな」と言われればメロンパンを探す。しかし買って持って行けば「お前のセンスはこんなもんか」とどやされる。
本来は映像の制作や演出という仕事は頭脳労働です。しかし先輩ディレクターに「お前は俺らの仕事をインテリの仕事だと思ってない?」と聞かれた時はショックでしたね。「え?頭脳労働じゃないのかよ?」って叫びたかったですね。こんな理不尽な職場に未来を託そうと思う若者なんているんでしょうかね。
「もうやめます。探さないでください」なんて、マンガみたいな書置きでやめる人続出という状況でした。私がいた会社では、本当に三日でやめた東大卒もいました。さすが東大、利口ですね。最初の会社で同期だった慶応卒の男性もやめました。利口ですね。
残念なことに自殺した人も身近に二人います。いい奴から先に死ぬというのは本当です。二人とも本当に良い人でした。

当時はグロス発注など当たり前だったので、どこまで努力して良い番組を作っても、何回修正を加えて工数をかけて番組を作っても制作費は変わりません。制作会社側で何とか3割会社に残すように努力はするのですが、それも厳しい。まさに24時間営業。夜はディレクターは帰りますが、ADはディレクターが仕事を終えてから、仮編集をしたワークテープ(VHS)からタイムコードを書き出して翌朝から始まる編集作業に備えるのです。で、編集に入ってもADはそのまま働きづめ。
この調子で、発注主がちょっとムチャな要求を言っても制作プロダクションががんばって実現してくれるのだから、欲が出てムチャを言いたくなるのはわかります。当然、何回も局からは修正依頼(というか変更依頼)が来るような状態が日常となっています。

こういう蓄積が、公正取引委員会の目に留まってしまったということなのでしょう。

ギブアンドテイクを忘れずに

経済はギブアンドテイク。恩を当然と思ったら大間違い。1もらったら1返す。10もらったら10返す。だから対等な立ち位置を構築することができますし「お客様」として扱われることができる。
10もらったのに1しか返さないのはルール違反。私の会社にとっては貧乏神でしかありませんのでお客様でもなんでもありません。お帰りいただき塩を撒いてお浄めします。

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