映像制作の現場からタイトル
2023/2/17公開 2023/5/28追記

H3ロケット打ち上げを中止

本日、H3ロケットの打ち上げの中止が起きました。
新規開発したエンジンも搭載していることもあり、1人のサイエンス・オタクとして期待していたのですが、こうなってしまったことは本当に私個人として残念に思います。
とはいえ打ち上げてから爆発したわけでも軌道からそれたわけでもなく、打ち上げる前に何らかのデータを検知して正常・健全に打ち上げシーケンスが停止したわけですから、損失を最小限度に止めるという意味でもH3の1号機はちゃんと意味のある信頼性の高い働きをしてくれたと思います。何か不安があるなら止めたほうが損失が無いのだから、これで良かったのだと思います。
具体的には、一段目のメインエンジンLE-9は打ち上げ5秒前に燃焼を開始し、パワーが立ち上がった状態でした。後の記者会見では岡田プロマネがリフトオフ時の出力の9割くらいまでLE-9が立ち上がっていたようなニュアンスを語っています。つまり、新開発のLE-9は打ち上げ寸前まで期待される正常な状態だったというニュアンスです。
しかし、LE-9の立ち上がりを待って打ち上げの本当に寸前に個体ロケットブースターに着火する信号を指示するハコが、何かの異常を検知して信号を送ることをしなかった。その結果打ち上げシーケンスは中断、メインエンジンも停止したという感じでしょうか。

リスクマネジメントとしての記者会見

打ち上げ中止(打ち上げ予定二時間後のお昼頃のニュースでは文科省が「打ち上げ中断」という表現を使っている)を受けて岡田プロマネ(プロジェクトマネージャー)の記者会見が14時くらいから行われていましたが、「分からない事は分からない」「確かなことしか言わない」という学者らしい記者会見で大変良い会見だったと思います。そして多くの時間を記者からの質疑応答に費やした。
その質疑応答で感じたのは、いかにロケットが「安全に止める」を優先して設計されているかということでした。岡田プロマネも言っているのですが、飛んでしまってからでは(自爆させるくらいしかできない)何もできないのですが、打ち上げるまでは何かあれば止められる。そして質疑応答の中でも使っている言葉ですが「安全に止まった」ことが重要なのでしょう。
とにかく岡田プロマネは、何か問題があればすぐに「安全に止める」ということをどれだけ真剣に考えてH3を作ってきたかを強調していました。これほど説得力のある記者会見があるでしょうか。
簡単に言えばロケットの安全性確保(リスクマネジメント)の基本方針がしっかりしているため、その基本方針を丁寧に説明するだけで多くの人に納得してもらえるのです。これはつまり、ロケットのみならずJAXA全体にとってもリスクマネジメントになっているわけです。

新幹線との共通点

「安全に止める」。この言葉を聞いていて思い出すのが新幹線です。日本の新幹線は事故を起こす前に止めるという思想を徹底しています。そのため映画『新幹線大爆破』のような映画が成立するわけです。
この映画は高倉健さん演じる町工場の社長さんが、時速80キロを下回ると爆発する爆弾を新幹線に仕掛けるという話でした。そこで犯行声明を受けて国鉄などが当該列車をとにかく止めずにギリギリ時速80キロで走らせ続けるのですが、何せ「何かあればすぐ止める」を設計思想としている新幹線ですから、各キャラクターたちは「新幹線を止めないこと」に四苦八苦するわけです。つまり「すぐ止める」新幹線の安全策が裏目に出た。
このように映画では厄介だった「すぐ止める作戦」も、現実の社会では日本の新幹線の安全性向上に大きく役立っています。事実、これまで誰も事故で犠牲になっていないのです。
日本人は新幹線を利用するたびに、この「何かあればすぐ止める作戦」の恩恵を受けてきた。同じく「すぐ止める」を徹底しているH3ロケット。その意味でも岡田プロマネのおっしゃることは、多くの日本人にとってすっと飲み込むことができるものだったのではと思います。
打ち上げ前に止めてしまえば事故は起きないわけですから、これは本当に重要。徹底していけば、例えば500回打ち上げて100回何か問題を検知して止まったとしても、確実に問題が無い時だけ打ち上がるロケットなら、400回成功するわけですし、一回も爆破信号を送らずに済みます。ということは、有人飛行をやったとしても一人も犠牲者を出さずに済むということ。犠牲者が出る可能性が極度に低い、もしくはゼロに限りなく近いなら、日本も有人飛行をやれるかもしれないのです。

有人飛行と直接選挙による大統領制

よく「日本で有人飛行をやるならロケットのさらなる信頼性の確保が必要」という論調がありますが、私個人の意見としては、アメリカのスペースシャトルの失敗回数を見れば、ロケットの信頼性と有人飛行へのインセンティブはまったく別問題だと思うのです。アメリカではあれだけの犠牲者を出しながらも有人ロケットの打ち上げは続けている事実があります。
また、必然性の有無を理由とする人もいますが、これも違うと思います。もし有人飛行を日本がやるというのなら、多くの研究テーマの提案が出てくるでしょうし、必要性なんてものは後からついてくる。
要するに日本が人を宇宙に打ち上げないのは「政治」でしょう。事故でもあったら政治が持たないから。他国のロケットで日本人を打ち上げておけば何かあっても日本の政治家はダメージを受けない。ここは大統領制の国のほうが直接選挙で選ばれたリーダーが「月を目指す」と言う分、通りやすいでしょう。日本の総理や内閣は間接選挙ですから弱いですよ。

それと本日の岡田プロマネの記者会見は「安全に止める」を徹底してアピールしたことで、意識していたかどうかはともかく、聞く者の脳裏で無事故の新幹線とイメージを重ねさせ、単なる「衛星打ち上げロケット」ではなく「宇宙への安全な乗り物」という側面も感じさてくれました。これは大きな意味があった。リスクマネジメントとして優秀どころか、JAXAの将来の可能性まで感じさせてくれました。本当に優れた見本のような記者会見だったと思っています。

優れた会見の中での通信社記者の愚問

さて、メディアのコラムですから、話をメディアに戻しましょう。ここまでJAXAの本日の会見がどれだけ良かったかを話してきましたが、ひとつ、記者から出た本当に本当に愚問があり、倒れてしまった話をひとつ。
共同通信の記者が執拗に「中止なのか失敗なのか」という意図の質問をしていました。打ち上げは確かに中止されたのですが、そのことがすなわちすぐ「失敗」かどうかは見方によるでしょう。
どうもその記者は、打ち上げ中断直後に『H3ロケット1号機発射「失敗」固体ブースター着火せず』というタイトルの記事を書いていたためか、その記事の信頼性担保のためにも「失敗」と言い切りたかったのではないかと私は疑わしく思いました。

※後日女性自身がこの記者さんの発言を問題視して記事を書いています。

それにしても、中止か失敗かという二者択一の議論、つまり「ステレオタイプ」な感覚の質問をメディアが行っているうちは日本が「技術大国」「科学技術立国」になりにくいだろうなと心から残念に感じました。
技術を含めて学術は、起きた事象を客観的に評価する姿勢が求められるわけで、物事を切り分けて細かく見ていく必要があると思います。しかし大きなマクロな枠で白か黒かを論じはじめたら、それこそ重要な詳細部分がそのくだらないマクロの論争にかき消されてしまう。そんなことは科学的ではない。
今回の個体ロケットブースター未着火も、どこかの振動なのか?それとも部品の不具合か?はたまたちょっとした部品の油切れか?原因は何かわかりませんが、何か一箇所はH3に打ち上げ続行を躊躇させる原因になった。しかしH3は何かに不安を感じ躊躇してちゃんと止まったのです。搭載されていた衛星も無傷です。これを失敗と言っていたら、例えば架線の問題が原因の新幹線の緊急停止も「失敗」となってしまう。今回は公式な発表通り、あくまで「中止」もしくは「中断」という解釈がふさわしいと思う。

記者会見をよく見てもらうとわかりますが、JAXAの岡田プロマネは誠心誠意、この共同通信社の記者の問いに自分なりの見解を説明しています。ところが、最後この記者はとても強い語気で「それは一般に失敗と言います」と言い放って質問を終えています。これではさすがに「捨て台詞」と言われても反論できませんよね。国の未来を背負って能力の限りを尽くしてくれた岡田プロマネに対し、またJAXA全体、そして三菱重工やH3製造に関わった各社の関係者に対し、さすがに失礼ではないでしょうか。と同時に、こうした失礼かつ傲慢な姿勢が見えてしまうから、社会で真っ当に生きてきた社会人の皆さんが「マスゴミ」と言いたくなるのでしょう。

メディアは傲慢さを捨て去り、あくまで真摯に事実と向き合うべきです。今回のこの「失敗断定記者」の捨て台詞は、なんと傲慢で愚かな発言であり失礼な態度だろうと思う。
たとえ相手が失敗したと思っていたとしても、このような記者会見での放言は許されるとは思えない。相手はテロリストでも犯罪者でもないのです。罪を犯したわけでもない。日本の国益を背負うJAXAの新型ロケット打ち上げのプロマネです。あくまで敬意をもって質問を行うべきであり、自分は何もできないくせに、たかが文系学部出身の記者がJAXAのプロマネに対して、鬼の首をとったかのように責めるような言い方は控えるべきではないでしょうか。これでは人間性が問われて当たり前です。
共同通信の文系学部出の一記者の失礼な一言で、(こんなことは無いと信じますが)岡田プロマネがやめてしまったりしたら?どう責任を取るのでしょうかね。「かわりに文系人間のアナタがH3ロケットを手直ししてくれますか?」と、私はこの記者に問いたいし、今回の放言は大いに反省してほしいと思う。とはいえ反省なんかこれっぽっちもしていないでしょうね。謝罪をしたような形跡もニュースも出ていないし。
私は一応共同通信には抗議のメールを送りましたが返事が来ていません。返事があればここで公開いたします。とはいえ今のところ何も返事がありません。こういう意見した相手を無視するような姿勢も傲慢さを感じさせるに十分な姿勢ですし証拠でしょう。だからマスゴミと言われてしまうのです。

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