映像制作の現場からタイトル
2022/8/14公開

日本の産業を支える材料工学

自動車のバッテリー

ハイブリッド車に搭載されるバッテリーユニットのCG

これまでいろいろな分野のサイエンス映像を手掛けてきましたが、弊社が今特に注力している分野が「材料工学」と呼ばれる分野です。もともと弊社のお客様はポーラさん、コーセーさんなど化粧品を製造する会社さん、それに東レさんや旭化成さんのように素材を扱う会社さんなどが多かったため、そこそこの馴染みはあったのですが、最近はセラミックや金属、それに炭素といった分野の動画案件が増えております。
調べ始めるといろいろ難しい分野ではあるのですが、日本はどうやらこの分野では世界一の国で、日本が無ければ今の世界のテクノロジーは存在しないのではないかと思えるほどの強さを持つ分野です。
例えば「耐熱・耐圧」と言えば素材が命ですし、ジェットエンジンやロケットエンジン、それに宇宙エレベーターと、こうした地道な研究が産業として成長すると大きな成果となって形になる面白みを感じさせてくれる分野です。また近年競争が激しいバッテリーの電解質なども材料工学が大いに役立つパートでもあります。

トラウマが日本の材料工学を磨き上げた?

私のような素人が知る限りでも材料の研究が世界のパワーバランスを変えてしまう事例は山のようにあります。友人の自動車の技術屋から聞いた、「なるほどねえ」と思ったお話をひとつご紹介しましょう。
時は第二次世界大戦。アメリカが使用したB-29長距離戦略爆撃機のR-3350エンジン。これに積まれていたターボチャージャーは今のGMが製造したものですが、これと機内の与圧技術がB-29の最高到達高度を高め、高空を飛ぶことができた秘密だと言われています。機内の与圧は中の人を快適にして健康を守るものなので、重たいスーツ着れば対応できたのでしょうが、ターボチャージャーのほうはとても重要。
とにかく高空になると空気が薄くなるのでエンジンの中で燃料がうまく燃えてくれないのです。そこに空気を扇風機のような羽根(ターボチャージャー)で圧縮して供給することで、燃料がちゃんとキレイに燃えるようにするわけです。日本の航空機はこの高度まで登れずにいたので、なかなか迎撃することができず、大規模な戦略爆撃を許してしまった。
しかし墜落したり、やっとのことで迎撃したB-29を検証しても日本ではこれほど優れたターボチャージャーが作れなかった。超高回転するターボの軸受けの素材が熱でどう膨張したり強度が低くなるか?そのノウハウが無いため、どうやったら自前のターボを作れるかわからないのです。
ターボってものはエンジンの排気圧で羽根を回して、軸のもう一方の羽根で空気を圧縮してエンジンの燃焼室に供給するという仕組みなので、常に排気の熱にさらされ、さらにものすごい回転数(数万~数十万回転/分)で回り続けるため、これも膨大な熱量になるわけです。当然膨張しますが、どの程度の膨張か?日本にある素材ならどの程度クリアランスを残して、どんな形にすれば機能するのか?まったくわからない。こんな過酷な環境でも壊れず機能し、長距離飛んでも回り続ける。アメリカがこれほど金属や材料を理解していることに日本の技術者もびっくりしたわけです。戦後の技術者はこうしたトラウマがあり、企業も素材のノウハウや研究を精力的に積み上げていったという歴史もあるようです。
戦前から日本は五大国の一角でしたしアジアを代表する工業立国。さらにその歴史的経緯からも冶金が優れた国でしたから、こういう分野に強い自負があったのでしょうが、その分野でアメリカにしてやられた感じになってしまったのです。「十分に進んだテクノロジーは魔法のようなもの」とは言いますが、まさに魔法を見せられたようなもの。
もちろん、姿かたちは同じものを作る加工技術は日本にもあるわけです。しかし素材の膨張の度合いや特性がわからず、どの程度の隙間を残せばうまく機能するかもわからないため同じ形を作っても機能しない。形だけ真似ても無駄という現実。
その教訓から日本は材料の基礎研究が大切と信じて戦後邁進したというストーリーです。

酒の席での与太話なので、細かい部分でどこまで真相かわかりませんが、少なくともあの敗戦は日本のテクノロジーの発展の原動力になったことだけは確かなようです。自分がもしその立場だったら、悔しいでしょうし、リベンジしようとしますよきっと。当時の技術屋も同じでしょう。

カタチだけ真似ても造れない!材料はキモ

こうした地道な研究の積み重ねが世界における日本の立ち位置を高めています。
ここで一つ、私自身の経験をご紹介します。本当に私事なので、興味なければすっ飛ばしていただいて結構です。
私はバイク好きで乗るのですが、最近のバイクっていうのは日本のブランドだろうがイギリスだろうがアメリカだろうが、たいていはタイか中国で製造されております。アメリカのハーレーがタイに工場を移した時はトランプ大統領がハーレーダビッドソン本社を訪問して「アメリカを体現する企業だ!うんぬん」と言ったのに工場移したもんだから話題になりましたよね。
タイはそこそこの高級品まで作ってて、中国は安い実用品が多い。そのブランドの本国の工場で作っているものと言うと、カワサキのH2みたいなよほどの超高級品でしょう。普段乗りなどはもう本当に外国の工場で生産。
で、本題に入ると私が持ってるVTR1000Fというホンダのバイク。1997年式なのでもうすでに車齢は25年にもなるのですが、さすが国産、錆などほとんどなく、キレイです。いつまでも調子いいし、よく走る。設計や構造はさすがに今は古さを隠せませんが、とにかく壊れないし材料が良いのがわか

AJSCadwell125

AJS-Cadwell125。カスタムした状態。

る。
もう一台、英国のブランドでAJSというのがあるのですが、ここが中国の工場で生産しているCadwell125というMTの原付二種。カフェレーサースタイルで大変良いし基本設計の良さは確か。エンジンも日本のヤマハの設計のE399E(もちろん中国生産)搭載なので設計は本当に確か。しかし素材がよろしくない。
まず錆びるのですよ。とにかく錆びる。「こんなところがなんで?」と思うところが錆びる。ちょっと高価なアフターパーツで置き換えれば良いのでちゃんと整備さえしていれば問題は無いのですが、製造からたった2年しか経たないのにサスペンションのスプリングが錆びてたり、ネジに錆が浮いてドライバーが入らない。こんなのどうかしていると思う。しかも塗装もすぐ剥げる。設計通りの形はできているんです、でも素材がダメ。
細かいところを言うと中華製エンジンのヤマハE399Eのクラッチハウジングの弱さは致命的です。たかが10馬力の125ccのエンジンなのに、6000キロ走っただけでハウジングのクラッチプレートとの当たり面に段差ができてしまうのでクラッチフィーリングが悪くなる。設計はヤマハだから良いのですが、使ってる材料が悪すぎる。しょうがないから分解してハウジングのクラッチプレートとの当たり面を研磨して段差をなくすしかない。

最近の中国といえば、宇宙ステーションを作ったり、新しい戦闘機を作ったり空母を作ったりと忙しいですが、こんなバイク一台をマトモに作れないのに、人を宇宙に飛ばしたり空を飛ばしたりして大丈夫なんだろうか?と少し不安になる。確かにカタチはできているんです。でも素材が悪い。目先の「バイク造ります」は出来ていても、長い目で見た時にこれじゃ壊れるでしょ。中国って粘り強くて100年スパンでものごとを考えるって言ってなかったっけ???2年持てばいいのかね?

材料工学は映像化してもペイする分野

このように、今の日本は材料では世界でも屈指の先進国です。しかも材料は工業製品や医薬品開発などの「製品」に直結するためビジネスとして大きな飛躍の可能性を秘めているわけです。ですから、そこそこお金をかけてちゃんと映像を作っても、それをペイすることができるだろうと思い、比較的「損はないから映像やりません?」とおススメしやすいジャンルでもあります。そして何より自分の国のためになる。これは重要。

私の会社はなんでもかんでも仕事を請けるわけではありません。お話をうかがい、意味があると感じた案件を大切にじっくりやる。なにせ映像はお金がかかる。おいそれとおススメなどできるものではありません。お客さんに損をさせるわけにもいかないです。でも、かけた費用に見合った結果が出やすい分野の場合は積極的にお引き受けしたいですからね。

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