映像制作の現場からタイトル
2024/7/2公開

Libec50の登場

スタジオEFPカメラで使うような超重量級の高級品はともかくとして、いわゆるブライダルや軽いロケで使う軽量なENG三脚においては日本製がとにかくここ15年くらいで急にクオリティを上げてきた感じがします。
かなり昔になりますが、今から30年近く前(1995年か96年あたりだと思う)、Libec50という三脚が埼玉県八潮の平和精機工業からリリースされました。ビデオサロンもビデオαも、総じて好意的に国産のENG三脚の登場を歓迎しました。
確か定価は15万円。当時、ザハトラー(ドイツ)やヴィンテン(イギリス)といった局でのディファクトスタンダードとなっていたブランドのENG三脚は総じて100万はします。他に安価な使える三脚というと、マンフロット(イタリア)が比較的安くて買えるかな…という感じで、あまり選択肢が無かったのです。ですからこのLibec50の15万円というプライスタグは破格。
とはいえ、このLibec50の運台はカウンターバランスも固定式ですし、ドラッグ調整(パン/ティルトの固さ調整)は二段階という簡易な造り。ボールレベラーの径も軽量級の75mm。さらに脚も二段伸縮のものしか無く三段のものが選べませんでした。

ターゲット層はハイアマチュアか?

放送業界で一般的なENGカメラ用三脚と言えば運台のボールレベラーは100mmが普通でカウンターバランスは無段階調整ですし、ドラッグ調整も無段階が普通。さらに脚は三段伸縮のものがほとんどでした。つまりLibec50は一回り小さい上に構造的にかなり簡易。まあ、だからこそ軽く安価に作れたのでしょうが…
とはいえLibec50はとにかくデザインが素晴らしかった。色も最初からブランディングを考慮していて薄いグレー。黒でも白でもないグレー、つまりザハトラー(黒)でもなければヴィンテン(白)でもない、グレーなのです。そしてロゴがまた素晴らしくセンスが良かった。
ターゲット層としていたのは、これは私個人の意見なので「多分」がついてしまいますが、往年のあのEDCAM(EDC-50)やDXC-325のHi-8ドッカブル仕様のような、比較的軽いENGタイプのショルダーカメラを好んで使っていたようなハイアマチュアやブライダルプロダクションではないかと思います。

黒歴史だったLibec50

実は私もLibec50が出た瞬間に「これは使ってみたい!」と思ってすぐ買ってみた1人です。ところが、使ううちにドラッグ調整のノブのところから内部のオイルが漏れ始めた。映像に触れたことが無い人のために説明しておくと、ビデオ三脚の運台というのは油圧で粘るようにパンやティルトといった動きができるようになっています。その油が外に漏れてしまうというのは、実はかなりまずい。そしてこれだけならまだ「しょうがないか」と思えたのですが、なんと今度は三脚の脚の付け根の接着が外れてガタが出てしまった。というより、脚のパイプが抜けてしまった。これはまずい。本当にまずい。まさに「グラグラ」です。
確かにビデオ三脚は重いカメラを載せるので難しいとはいえ、それまでスチル写真用の三脚をHEIWAブランドで作っていたメーカーなのだから、もっと出来るかと思ったのですが、(これも多分ですが)私と同じような残念な結果に終わった人がいたのでしょう、個人的な肌感覚としては「三脚は舶来品を買うべし」というイメージが映像業界全体に広まった気がします。実際、Libecというブランドを業界内で目にすることはほとんどありませんでした。

継続は力なり!を地で行く努力に感服

とはいえ、それから10年以上経った頃、ラインナップが増えていたLibecの85という運台と100mmボール三段脚の組み合わせを使う機会に恵まれまして、それを使ってみたら「すごく良い!」と感じたわけです。それまでヴィンテンを中心に使ってきたのですが、フィーリングこそ違いますが、絶対的なクオリティとしてはヴィンテンのvision10あたりとさほど変わらない使い心地だったのです。パンの「おつり」も来ませんし、全体の剛性も高い。
嬉しかったですね。本当に嬉しかった。海外製を使いながらも、なぜ日本のような工業立国の映像マンである自分が、海外製を使わにゃならんのか?と思っていたところに、このLibecの快進撃。これも多分だけど、彼等平和精機工業の方々は、私らが見ていない間もずっと努力を続けていたんですよね。
継続は力なり!
彼等は諦めることなく向上心を持って三脚を造り続けた。その結果が85という三脚の性能として実ったのでしょう。
運台は無段階のカウンターバランス調整、無段階のドラッグ調整、100mmボールレベラーという本格的な仕様で、脚も三段で剛性もしっかりしている。この位しっかり出来ていれば放送用ENGカメラを普通に載せることができるわけです。しかも値段は舶来品の半分。
もしも、最初に登場したLibec50が、仕様こそここまで本格的なものではなかったにせよ、クオリティとしてこのレベルを実現出来ていたとしたら、世界の放送局での三脚における勢力図は大きく変わっていたのではないか?そう思わせてくれるほどの出来の良さ。思わず「なんでコレを最初に出さなかった?」って叫びたくなるくらいの衝撃でした。
もちろん、すぐ買いました。で、何年使ったかな。領収書ももう残って無いし、わからんけど、でも今も普通に使えている。たぶん10年以上は使っているけどまだ壊れないし剛性もカチッとしている。文句無し。
日本製の三脚。本当に良くなっていますよ。使ったことが無いTVカメラマンも多いと思いますけど、一回使って見てほしいです。

カメラも三脚も日本製

ビデオカメラは伝統的に日本は強いわけです。これも血の滲むような開発努力があってのことでしょうが、ビデオカメラは過去ずっと日本のメーカーが世界をリードしてきました。とはいえ三脚はなぜか舶来品。それがLibecの性能向上で、全部日本製で揃う時代になりました。
マイクだってSONYもラムサもオーディオテクニカもある。ゼンハイザーやノイマンも良いけど心情的には日本製を応援していたい。照明機材だってそう。

もちろん、全部を日本製で揃えるということは無いけど、うちの会社に7本あるENG三脚のうち、4本が国産だというのは本当に良い事だと思うのです。3本あるヴィンテンはどうしても外せないのだけど、でも日本製も健闘していることだけは多くの日本人カメラマンに知ってほしいと切に願っております。

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