2024/6/11公開
HDのメインカメラがぶっ壊れた
最近ウチの仕事ってほとんどが「フルCG」です。つまり撮影は全く無し。ただただ台本作ってコンテ切って、そのコンテを基にCGをモデリングして動かしてレンダリングし、編集→MAというポスプロをやって納品。私らデキサのスタッフも、仲間のゲインの社長さんも、みんなワークステーションのモニターとにらめっこしながら仕事をしている。
なので、「あれ?うちってCG屋だっけか?」という考えがふと浮かぶ。これじゃ映像制作会社であることを忘れてしまいそうな毎日なので、何かしないとなと思っている矢先に、わが社の主力撮影機材であるPanasonicのHPX375のファインダーがぶっ壊れた。
まだ通電時間250時間も行ってないのにファインダーの画像のコントラストが淡くなって白っぽくなってしまった。(Panasonicさん、さすがにこれ、弱すぎるでしょ)
うちのカメラマンは藤さんと岩田さんといって、ご両人とも私のこれまでの経験で「日本で5本指に入る」と思ってる名カメラマン。とはいえ、いくらカメラマンが優秀でも、ファインダーがぶっ壊れていては何も撮れない。
で、修理しようかなと思ったら、もうメーカーにパーツの用意が無いという。(こっちも早すぎるだろ)
さらに言うと、私は気に入って使っていたのですが、デキサのもう一台のメインカメラPanasonic HPX555の画質に、うちのポスプロを担当してくださっている(株)ゲインからNGが入ってしまいました。ついにというか、予想はしていたのですが、HPX555はDVCPRO-HDのカメラですから解像度は1280×1080なのです。そのため横の解像度で言えば今のカメラとは1.5倍の開きがあります。この解像度の甘さだけは、もうごまかせない。編集で1920×1080のフルHD解像度の素材とつなぐとカメラの違いが目でわかってしまうのです。で、ついに今年、HPX555は現役を引退しました。
思えば、2007年の導入以来、17年間、よく活躍してくれました。私たちの生活を支えてくれた偉大なカメラ、それがHPX555です。
4Kばかり注力してHDホッタラカシのメーカー
さて、上記のような理由で、使えるカメラが一台もなくなってしまったのです。ですから新しいカメラを導入することにした。ところがですよ、カタログを見てみると、見事にショルダーENGスタイルのHDカメラがありません。馬鹿みたいに高いやつなら生き残っているのですが、標準とワイドのレンズやファインダーをセットにして300万そこそこで揃うような、いわゆる手ごろなコストで維持できるショルダーENGのHDカメラが無い。手頃なカメラが無いと制作に必要なお金がかさみ、制作費全体が高くなる。高くなればそのツケを払うのはお客さん。ただでさえ物価が上がって人件費が上がっているのに、使う機材費まで上がるというのは、さすがにお客さんがかわいそう。
ここ最近はメーカーさんも4Kのシネマカメラに一生懸命で、いわゆるHDのショルダーENGカメラの新規開発はあまり注力していない。というより4Kはシネアルタやヴァリカム、それにアリフレックスみたいなシネマカメラは撮像素子がデカいから簡単に作れるけど、ショルダーENGを作るとなると、いくら大きくてもENG用の2/3インチ(インチは昔の管球式時代の撮像管サイズの表し方でCCD以降は2/3型と表現するのが正解のため、これ以降は2/3型と表現します。)撮像素子用のTV-Zoomレンズのサイズが限界で、そのイメージサークルはそう大きくはありません。ところが4Kの解像度を美しく実現できる撮像素子はある程度の大きさになるので、2/3型撮像素子用Zoomレンズ搭載の4K-ENGは至難の業。
一応、今でも2/3型の通常のENGレンズを使える4K-ENGカメラは存在するのですが、これはレンズマウントまでは2/3型規格で従来のENGカメラの使い勝手はそのままに踏襲できているのですが、レンズマウントから先は従来のENGカメラとはまったく別モノ。なにせ拡大レンズを使って一度2/3型のレンズマウントまで集束してきた光線を、拡大レンズで拡げて1インチよりデカい(4/3型等)4K撮像素子で撮影するという方式です。何が悲しくていったん小さいイメージサークルにしたものを、再度大きく拡大せねばならんのか?????
さらに言えば、放送業務用ENGではこれまで一般的だった3CCDや3MOSなどの「三板式」ではなく、色フィルターを使った単板式。こんな、今までに聞いたことも無いようなメカニズムのカメラなど「技術的過渡期のカメラ」にしか見えません。つまるところ、レンズの解像度も4Kですら(物理的にエアリーディスクの大きさがあるため)難しく、さらに放送業務用クラスの画質を保証できる4K撮像素子を2/3型で作るのは難しいということなのでしょうか。このあたりは技術者の方々に理由を聞いてみないことには私にはよくわかりませんが、今現在世の中に存在する4KのショルダーENGカメラの設計には、まだまだ無理がある気がするのです。
となると、やはりショルダーENGカメラに限って言うなら、技術的に完全に確立できていると言い切れる解像度は「フルHDまで」という結論になる。フルHDなら2/3型どころか、今なら1/3型のモデルでもかなり画質が出ていますから。しかも1/3型撮像素子のモデルはレンズも小さく軽くできる。さらに細かい話をすれば2/3、1/2、1/3と選択肢は豊富。フルHD解像度までであれば、3CCDや3CMOSのモデルなので色純度も高い。
上記のような事情もあり、ウチも含めて2015年あたりの製造のHDのショルダーENGカメラをまだまだ現役で使っている技術会社や制作会社は多いのです。それに、HDに限ると、本当に性能的に目に見えて向上しているようなこともありません。ですから、さすがにちょっとメーカーサポートを打ち切るのが早いんじゃないの?と文句のひとつも言いたくなるのですが、ここはしょうがない。
メーカーは4Kを推進したがるし、市場はHDで十分という考えが多いので、ここにズレがあるのは確か。結果、私ら制作会社が何とかその橋渡しをしないとならない。
選んだのはPanasonicのPX380
ということで、妥協案ではあったのですが、選んだのがPanasonicのPX380というカメラ。これに「まずまずのグレードのファインダー」を組み合わせて購入してみました。
このカメラも設計は2015年あたりのものなので、決して新しくはないのですが、正直な私の感想を言えばメーカーさんの意気込みとは裏腹に、4Kなどを排してHDだけで言えば、SONYもPanasonicも、特殊なカメラを除けば2009年あたりから絶対的な画質はこれといって向上していません。フルHDでの撮像と記録が可能になった後は、利便性こそ向上しても画質はほとんど変わっていないのです。極論かもしれませんが放送用/業務用のクラスの機材に限って言えば実際事実です。
画質にどちらかというとうるさい私の眼で見ても、すでに2010年頃には「これ以上はフルHDじゃ難しいでしょ」ってくらい画質そのものはどのメーカーのどのカメラを使っても達成していたので、こちらの2015年前後に発表されたカメラの画質はというと、まあ期待通り。これ以上はHDでは無理でしょうという画質が出ています。
利便性はかろうじて向上
とはいえ利便性は向上していて、記録メディアとして、従来のP2カードに比較して安価で小型のSDXCカード(とはいえV90規格以上という厳しい基準を満たしたカードしか使えません)にP2と同じAVC-Intra100など高画質な放送用コーデックのファイルを記録できるようになっているのは便利。
そもそもP2カードは高すぎるんです。こういうコストは全部お客さんへの請求金額に反映されてしまうので、なるべく安価なほうが良い。とはいえ信頼性も大切なので、後でそのことには触れましょう。
SDXCが使えるようになって便利になった反面、HPX375ではファインダーとは別に本体にLCDモニターがあって便利だったのですが、それが無くなったのが不便。あれはあったほうが良いのよ。でもコストの都合でしょうかね。かわりにファインダーが別売りになって、ちょっと高級なファインダーが使えるようになりました。ですから私の会社ではAJ-CVF25GJというファインダーを搭載しました。
興味はSDXCカードの信頼性
さて、PX380を手に取った私の最初の興味は、いわゆる「軍用仕様」とまで言われるほど信頼性を担保したP2カードの代わりに、民生用のSDXCカードをどこまで信用できるか?ということ。
さっそく、テストでAVC-Intra100での記録を行ってみました。もし記録が追い付かずエラーともなれば使い物になりません。ですので、100mbpsのデータレートでガンガン映像信号をSDXCカードに記録させ続けました。
まず使ってみたのが「ProGrade Digital SDXC UHS-II V90 COBALT 64GB」というカード。私は不勉強で、このProGradeというブランドを知らなかったのですが、こちらの製品は100%全品検査をしているというので、一応は信頼性が高そう。
実のところPanasonicのオフィシャルサイトで、microP2カードの製造終了の案内の中に代替品としてメーカーテストを受けていたのがこのカードなので、一応はmicroP2と並ぶ程度の信頼性はあるのでしょう。Panasonicも代替品として推奨しています。
続いて使ったのはNextorage(ネクストレージ)というSONY系列の国内メーカーが作ったものでF2PROというカード。規格としては 64GB UHS-II V90 のSDXCです。もともとSONYのタフネスシリーズを作っているメーカーですから信頼性も高いでしょう。
ということで、上記の二種類のカードに、これでもかってほどのデータを流しこんでみました。が、何も起きません。普通に記録できてしまいますし、コマ落ちなども起きません。当たり前のように普通に記録できている。
私も機材のテストは厳しいほうで、かなり過酷に「これでもか」と意地悪く流し込んでみたのですが、まったく普通。拍子抜けするくらい安定しています。
ということで納得できたので、今後しばらくHDのENGはこのPX380にSDXCの組み合わせで対応することにいたしました。
HPX375も2台体制に
どうせPX380を導入してHD取材の体制を拡充するのなら、これまで長年使って慣れているHPX375についても出来る限りメンテナンスして稼働させたい。ということで全国のショップを探し回って使える部品をかき集めて修理を実施。その結果、HPX375についても2台は完全に現場で使えるように復元できたので、PX380とあわせて3台のP2HDカメラが稼働状態になったというところです。
やはり使い慣れた375は手放せません。PX380で撮影した映像と編集をしてみたのですが、まったく画質は同じ。カメラが違う事も気が付きません。これなら私個人は使い慣れて手に馴染んだHPX375をもっと長く使いたい。メーカーさんももっと積極的に、この375のメンテナンスサービスを延長してくれたらと切に願います。
選択肢が少ないHDショルダーENGスタイルカメラ
さっきも言ったけど、ショルダーENGスタイルのHDカメラの選択肢が少なすぎる。4KのENGがまだまだ現実的ではないし、私たち映像制作の最前線で働いているスタッフに言わせれば、お客さんが4Kを求めてくることはほとんどありません。もしたまに4Kの需要があったとしても、それは4Kデジタルシネマカメラで解決できるので、機動性重視のENGカメラについて言うならまだまだHDで需要を満たせるのです。
NHK放送技術研究所やメーカーは、やれ8Kだ、16Kだと、わけのわからない解像度競争をしているが、そんなことにエンドクライアントも興味はほとんど無いんです。皆さん「HDでいいよ」が本音。ならもっとHDカメラを市場に供給してほしい。
メーカーさんにはぜひ、考え直してみてほしいです。