映像制作の現場からタイトル
2022/10/2公開

テレ朝局員コメンテーターの失言

つい最近、テレ朝の局員コメンテーターが番組中で以下のような発言をして大問題になっているそうです。

僕は演出側の人間としてテレビのディレクターをやって来ましたから、それはそういうふうに作りますよ。
政治的意図がにおわないように制作者としては考えますよ、当然。これ、電通が入っていますからね。

発言までの経緯は様々なネットニュースで扱われているので、そちらをご覧ください。

【東京スポーツ】玉川徹氏の〝国葬電通〟謝罪が拡大! 現役議員から「責任取ってもらいたい」

【東京スポーツ】玉川徹氏が事実誤認を謝罪 菅前首相の弔辞を「電通の演出」と断定…新たな疑惑も

【週刊女性PRIME】テレビ朝日・玉川徹氏の電通問題に止まぬ批判、局内もザワつく“玉川発言”3つの過ち

私はテレ朝の系列で業界歴をスタートしているため、思い入れがある局です。大変お世話になりました。でも、ちょっとこの発言はさすがにマズいと思います。
私がひっかかったのは「政治的意図がにおわないように制作者としては考えますよ」という部分。
私もディレクター(演出を行う職)ですが、そういう悪意に満ちた演出を私はやったことが無いので、それを「当然」と言い切らないでほしいと思います。世間一般の感覚で映像を制作しているスタッフやディレクターが大変迷惑します。

私個人の意見としては、右を見ても左を見ても、正直な感想で言えばロクなもんじゃないと思っているので、常に意識せずにニュートラルに個別に物事を考えるクセをつけたほうが有意義に人生を生きられると考えています。ですから、わざわざ故意に政治的立ち位置を自ら限定し、その立ち位置からの情報を「意図がにおわないように伝える」なんて面倒なことをしたためしがありません。本当に面倒くさい上にくだらないことです。

証拠が無い発言が信頼性を損ねる

あの国葬における菅氏の友人としての追悼文ですが、私は素直に内容を聞いておりましたので、あれをいちいち演出だと考えることもありませんでした。
それこそ政治的立ち位置はともかくとして、安倍元総理と本当に近くで一緒に長年仕事をされてきた菅氏が、その元総理の葬儀の場で、いちいち演出などというセコいことを考えるものでしょうか。
あの追悼を「演出だ」と断言するというのは、かなり斜めから物事を見ているように感じます。そんな証拠もありませんし、証拠が無いことを公共の電波を使った番組でテレビ局の局員が言ってしまうというのは、大問題だろうと思います。

どうして局はこれをもっと重く扱わないのでしょう。こういう斜め目線を基にした思い込み発言の繰り返しが、メディアの信頼を失う原因になる可能性もあるので、無視すべきではないと思うのです。

それに、結果として電通はからんでなかったわけですが、もしあの菅氏の追悼が電通の演出だとしたら私はビックリです。
商品イメージや企業ブランドを良い方向に演出するのが広告の役割の一つですが、残念ながら最近の電通さんは自社のブランド構築に成功しているとは言い難い。あんな自然な追悼の演出をやれるスタッフがいたら、今の状態にはなっていないでしょう。

メディアの生命線が絶たれる危険性

今回のテレ朝局員の発言は本当に危険です。テレビの信頼性というものは、もうかなり損なわれていますが、テレビばかりか他のメディアの信頼性にも大きな悪影響を及ぼします。
証拠が無いことを事実のように、公共の電波で発言する。これほど危険な行為があるでしょうか。本気で反省してもらいたいと思っています。

国民は、何かのメディアから情報を得なければ、国の将来や自分らの属する集団の行く末を判断することができません。皆さんお馴染みのヤフコメだって様々なメディアの情報を基にして国民が語っているわけです。根底にはメディアの情報が存在する。
ですから、そのメディアの情報が曲がっているとなれば、国民は何をよりどころに考えて判断すれば良いのでしょうか?役所や学者がオープンにしている一次情報だけでは整理整頓するだけでも一苦労。整理整頓はメディアの仕事でしょうし、多くの国民はメディアの情報に頼っている。
ニュートラルな目線でメディアが物事を伝えてくれなかったら、国全体が傾いてしまいます。

信頼性はメディアの生命線です。そこが崩れたら、メディアそのものが存在意義を失います。国民も困るでしょうが、私たちメディアでメシを食っている全員が苦労します。
世間話で思ったことを口にしたいなら、居酒屋にでも行ってほしい。スタジオでカメラが回っている時にやらないでください。

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