介護教材動画の規模と制作費を考える
弊社が制作してきた介護教材映像の一部
教材動画は複数の短いテーマ別の動画の集合体として制作されることがほとんどですが、介護の場合も同じです。
近年では介護施設運営企業様のみならず、全国に営業所を持つ必要がある業態では、サービスの質の均一化などを行うため、教材動画を自社のノウハウで制作してネット上もしくはイントラネット上にアップして、全国の営業拠点で情報を共有するという方法が盛んにおこなわれています。
また、こちらも介護に限らずですが、正社員のみならずアルバイトの方々とも情報共有するため、可能な限り難しくならないよう、VTRの造りにも配慮が必要です。さらに外国人を雇用する場合、日本語版のみならず英語版や中国語版などの制作も行われる場合があります。
こうした現状から、介護教材の規模も大きく拡大傾向にあり、その制作費も年々高騰しています。
これまで弊社が制作してきた事例を参考にしながら、いったいその制作費がいくら程度になるのか?見積を立てるために制作規模の設定、制作に関わるスタッフの人数や工数の想定、そして見積書という流れで見ていくことにしましょう。
介護教材動画の規模をまず設定する
まず、どの程度の規模で介護教材を作るか?を設定します。私たちは医療分野の看護教材(看護roo!などが代表作)や、介護施設運営会社様とのコラボレーションで多くの介護教材を制作してまいりましたが、その経験則から、これはあくまで一例ですが以下のような規模を標準的な内容と仮定しましょう。
介護用語編:10章44項目
1-1:施設見学で全体像を知る
2-1:介護施設の一日の流れ 2-2:ベッドで使う寝具類 2-3:介護用語チェック(クイズ形式)
3-1:介護保険 3-2:利用者との関わり 3-3:起床と睡眠 3-4:バイタルサイン 3-5:異常事態 3-6:医療との連携 3-7:介護のプロとして 3-8:介護用語チェック(クイズ形式)
4-1:姿勢について 4-2:身体の各部名称 4-3:解剖の基礎 4-4:介護用語チェック(クイズ形式)
5-1:移動についての言葉 5-2:移動介護の注意点 5-3:介護用語チェック(クイズ形式)
6-1:食事介護の流れ 6-2:食事で使われる道具 6-3:食事形態 6-4:食事介護の注意点 6-5:口腔ケアの言葉 6-6:介護用語チェック(クイズ形式)
7-1:入浴介護の流れ 7-2:入浴で使われる道具 7-3:入浴の種類 7-4:入浴介護の注意点 7-5:特浴・一般浴の流れ 7-6:介護用語チェック(クイズ形式)
8-1:排泄介護の流れ 8-2:排泄の種類と道具 8-3:排泄介護の注意点 8-4:介護用語チェック(クイズ形式)
9-1:脳卒中の言葉 9-2:認知症の言葉 9-3:その他の病気や症状の言葉 9-4:介護用語チェック(クイズ形式)
10-1:介護保険制度の言葉 10-2:介護保険サービスの色々 10-3:介護保険に関する職種と資格 10-4:介護の資格 10-5:介護用語チェック(クイズ形式)
介護技術編:5章25項目
11-1:平行移動 11-2:上方移動 11-3:仰臥位→側臥位 11-4:仰臥位→側臥位→端座位 11-5:端座位→立位 11-6:歩行介助 11-7:車いす移動平地 11-8:車いす移動坂道
12-1:おむつとパット交換 12-2:ポータブルトイレ 12-3:差し込み便器 12-4:立ちおむつとパット交換
13-1:座位での食事 13-2:仰臥位での食事
14-1:更衣ゆかた 14-2:更衣前開き一部介助 14-3:更衣前開き全介助 14-4:更衣丸襟一部介助 14-5:更衣丸襟全介助
15-1:洗髪 15-2:陰部洗浄 15-3:手浴 15-4:足浴 15-5:全身清拭 15-6:口腔ケア
上記の目次は弊社が過去に制作したものから、一般的な介護の知識を得るために必要にして十分な要素を盛り込んだ場合の合計で、ひとつの目安の提案ではあるのですが15章69項目となります。
動画の尺としては、およそですが1項目を1分30秒から2分程度と計算すると、全体で2時間~2時間半程度の完パケ尺になるのではないかと思います。規模的にはかなり大きな規模になりますが、片面1層のDVD教材2枚から3枚分程度の情報量とお考えいただくと想像しやすいかもしれません。
では、これだけの情報量を映像化する場合、どのような費用見積になるのでしょうか。
必要となる工程や人材の特徴
見積の根拠となる上記の「章/項目」が見えたところで、続いてはそれらを映像化するために必要な「工程上の特徴」や「必要な人材」が見えないと、見積を出すことはできません。そこで以下にそうした条件を列挙します。
介助内容の説明イラストや医学知識を伝えるCGなどが必要になるのでその費用も加算しておく
まずは一般的な映像制作の工程に加えて、例えば排泄介護、陰部洗浄、口腔ケアなども内容に関わってくるためプライバシーを避けるためのCGやイラストアニメーションの活用が必須です。また高齢者の病気への理解を促すための項目もありますので、こちらも病理病態CGが求められます。こうした分野に詳しいCGスタッフの参加は必須でしょう。
また、医療との連携などを扱う場合、看護に関する知識への監修を入れる必要性もあるでしょう。こうした監修に関する費用も見込む必要性があります。また監修の医師または看護師が入る場合はその交渉も必要なため、制作進行の手間が増え、その分の人件費も加算されます。
撮影を行う場所については介護施設がクライアントである場合は、その施設を活用すれば良いと思います。しかし教材の販売会社などがクライアントである場合は医療機関を模したスタジオなどを借りて使う方法があります。
介護技術を実演するのは介護に関する学校の教育者および施設の担当者が望ましいかと思います。こちらも介護施設がクライアントである場合は施設の担当者様で良いでしょうし、教材販売会社様がクライアントである場合は、弊社が監修をお願いするのと同時に実演できる方を手配まで行うことが可能です。
また要介護者の役を演じるモデルさんの手配も必要となる場合があります。弊社では、特に教材の場合は要介護者の役は高齢者である必要はないと考え、柔軟な姿勢でモデルの選定を行っております。
以下にもっと詳しく、映像制作の工程を追いながら見てみることにしましょう。
プリプロダクションのスタッフ構成と費用
上記の項目のような動画を一気に制作するとなると、撮影前の準備段階(プリプロダクション)から動くスタッフとしては、予算計画を立てて企画内容をとりまとめるプロデューサー、そして作品の演出計画を立てて現場の監督として作品のクオリティ担保全体を統率するディレクター、さらにリサーチを行い構成や台本の元となる情報を集めるリサーチャー、そしてプロデューサーやディレクター、そしてリサーチャーと共に台本を組み上げる構成作家。これらのスタッフが最初から参加する必要があります。
また、監修の専門家や撮影現場を探さなければならない場合、プロデューサーの負担が大きいことから、プロデューサーを補佐するAP(アシスタントプロデューサー)というスタッフが置かれることもあります。
これらをとりまとめて「制作部」と呼ぶ場合があります。これら制作部のスタッフは映像作品の完成までワークフローを追いかけるように制作を進行していきます。
これら制作部のスタッフの人件費については以下リンクからご覧ください。
およそですが、15章60項目近い2時間もの長い尺の動画完パケを制作する場合、その制作フロー全体に関わる制作スタッフの人件費は膨大です。最初の企画段階から最後の納品まで6か月を要したと仮定すると、以下のような金額が妥当な相場と言えます。
近年では物価高騰のあおりもあり、他の作品との同時並行制作を行っていたとしても、これでも半年もの制作期間の間動くためにはギリギリの金額だと言えます。出来る限り早い段階での完成を目指すか、制作期間がお客様都合で伸びた場合の追加予算なども、発注書や請書で約束を取り交わす必要もあるかもしれません。
制作スタッフの人件費相場(全120分の作品制作で半年程度の拘束の場合) | |
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プロデューサー(制作進行費) | 50万円~100万円 |
アシスタントプロデューサー(制作進行費) | 50万円前後 |
ディレクター(演出費) | 70万円~150万円 |
アシスタントディレクター(演出費) | 撮影などの現場フォローのみで参加した場合、5日間で20万円前後 |
構成作家(構成費) | 2時間分の台本で50万円前後 |
リサーチャー(資料・調査費) | 20万円前後 |
撮影技術のスタッフ構成と費用
撮影は一般的に上記の項目数なら5日間程度を見ておけば成立します。予備として1日加えて6日間の撮影で見積もれば実際の請求金額が見積を超えることは無いものと思います。
撮影に参加するのは前項目で述べた制作部のスタッフに加え、撮影技術を担当するカメラマン、ビデオエンジニア、そして規模によっては照明スタッフも参加します。音声は教材動画で実演を撮影するのであればピンマイクなどを据え置くことができますので、ビデオエンジニアが兼任することが可能です。
カメラ一台を一日運用する費用のことを「1チェーン」と言い、カメラマンとビデオエンジニアの二名で機材運搬の車両がついての金額を意味するのが一般的な解釈です。カメラ1台でのロケを6日間行うということは、「6チェーン」必要だということになります。
上記リンクのページでもご紹介していますが、テレビ用のショルダーカメラの場合、1チェーンあたりの相場は11万円から16万円前後です。使う機材の編成にもよりますが、介護技術動画の場合、カメラマン1名のみで撮影技術を担い、カメラのセッティングや機材運搬などは制作部も手伝うという方法なら、少し安価に収めることが出来る可能性があります。
この場合は、例えば1チェーンの価格を10万円とし、6チェーンで60万円という金額が現実的なのではと考えます。
ロケでのモデルさんや監修の費用
※クライアント企業様の社員様等が出演や監修をしてくださるなら無料
また出演するモデルと、介護技術の実演などを行う講師が必要です。さらに監修が講師以外に別にいる場合は、ロケ撮影に同席していただく必要があります。こうした人件費も必要でしょう。
要介護役を演じるモデルさんは一般に6日間丸ごと空けることができるスケジュールが難しい場合があります。そこで2名~3名での交代制を取るのが現実的です。教材ともなると半永久的に使用する映像作品ですから、肖像権の限定もできませんので、1日当たりのギャランティも5万円前後が一般的です。
監修や実演をお願いする先生については、どのようなお立場の方かにもよるのですが、大学の先生の時は、制作したVTRを大学に研究実績として提出できる場合もありますので、御車代などの名目で都度費用をお渡しする方法が一般化しています。御高名な先生方に一定の時間を頂戴するためには、実績となり、なおかつ常識の範囲で足を運んでいただく際の移動費を負担するという考え方です。
ですから、モデルさんと同様、ロケ1日あたり5万円前後×6日で30万円ほどを用意するのが良いように思います。遠方からおいでの場合は新幹線などの費用や飛行機のチケットの手配も行う必要があります。またホテルの手配も必要です。
メイクアップの費用
※高いクオリティを目指すなら必須
どの程度の完成度の動画を作るか?というコンセプトにも関わる内容ですが、もしこだわるならメイクアップスタッフも現場に必要です。肌のテカリなどを撮影中でもカメラが止まっている間にすぐ処理してくれるため、後で素材や完成動画を見て「自分の汗が気になる」「メイクが気になる」という事態は防げます。
費用はピンキリですが、標準的な金額として、道具込で1日あたり7万円程度をご用意いただくようにいたしております。
撮影現場の利用料
※クライアント企業様が介護施設をお持ちでそちらを使えるなら無料
病室を再現したクリニックのスタジオの利用料金の相場は電気代込でおよそ1日あたり15万円です。数日間通してスタジオをレンタルする場合は、そのスケールメリットでスタジオサイドと交渉することも可能ではありますが、2023年現在では電気代も高騰している現在、なかなか値段を下げるというのが難しいと弊社では聞いています。
また、実際の介護施設で撮影を行わせていただくという方法もありますが、これは介護施設の方々にとってメリットがあるように企画段階で折り込んでおく必要があります。
撮影時の上記以外の費用
上記以外にも、車いすやベッドの用意、ポータブルトイレや浴室の道具の手配など、細かい小道具はどうしても必要になることでしょう。例えば介護の学校や施設が主体となった教材動画の制作であれば、今お持ちのものを使えば良いので、費用に含まれることはありません。
ただし、ロケ現場では食費もかかります。食費は朝を外して昼と夜のみ、1日2食で計算します。こうしたロケ雑費も考える必要があります。
衛生管理の行き届いた自社機材を活用したロケ風景
また、実際の介護施設で撮影を行う場合、必要に応じて機材の消毒作業やスタッフへのエタノール消毒的配布なども行う必要があり、こうした衛生管理の費用も見積書に加算されることがあります。以下リンクからその細かい説明を見ることができます。
ポストプロダクションのスタッフ構成と費用
編集やMAなどをポストプロダクションと呼びます。
編集については数段階の工程を経て行い、少しずつ完成度を高めていきます。まず粗編集(オフライン)を行い、全体像を把握します。この段階で素材が足りているか?撮影した内容に間違いが無いか?などのチェックが可能です。ここで間違いが見つかった場合は簡単な修正なら編集で行えますが、重大なものならシーンごとカットするなどの方法がとられます。
一般に、この段階で見つかった撮影素材の間違いは致命的なので、ロケでどこまで真剣にチェックするか?監修がどの程度チェックをしてくれるか?ロケ現場でどこまで議論を交わしたか?ということが問われます。
介護技術の実演者の手の動き一つとっても、汚染を拡げる可能性は無いか?など細かく「ロケの現場以前に」決めておく必要があるのです。
粗編集を見て内容を確認し、意見を集約した後で本編集に入ります。ここではテロップなども入れることになります。粗編集と同じ程度時間がかかる(つまりコストがかかる)工程です。
こうした編集にかかる費用は、状況や方法によってもピンキリですが、一般的な教材編集の水準であれば、ノンリニア編集設備の使用料を含め1日あたり6万円ほどを目安にしていただければ十分でしょう。
また、2時間尺近いVTRを編集するには最低でも3週間はかかります。粗編集まではディレクターが行ったとしても編集費用全体として100万円はかかると思っていただければと思います。クリエイティブな工程ですし、手間もかかる作業です。コストはある程度見ていただきたい部分です。
音効についても2時間となれば、効果音の種類やBGMの曲数は膨大です。これらの権利処理を含め、選曲だけでも大変ですし、トラックに分けて配置するのも一苦労です。30万円から50万円を見込んでおくべきです。
MAスタジオの利用料やミキサーの人件費はミキシングで4日かかると見込み、24万円を目安とします。
ナレーターは1回で6万円から8万円を見込んでおけばよいと思います。ただし2時間分もの大作で、しかも専門用語の多い教材動画ですから、二日はかかると思ったほうが良いと思いますので、費用として見積には15万円を想定しておけばよいと思います。
上記条件で仮の見積書を作ってみましょう
上記でおおむね、15章69項目、総尺120~150分の動画集を作成するための費用が見えてきました。
顧客は介護施設を運営する企業様と想定し、撮影現場となる介護施設の部屋など、介護技術の監修、介護用具のご提供などをいただけた場合と仮定します。メイクアップは6日のうち半分程度で行うことと仮定します。
要介護の利用者様役のモデルは使う方向で計算します。介護技術の実演については顧客企業様から最適な方を選出していただき、お願いをした場合で計算します。すると見積は以下のようになります。
介護技術教材動画集制作の見積事例 | |
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制作管理費(プロデューサーとAP) | 1,000,000円 |
構成台本費 | 400,000円 |
演出費(ディレクターとAD) | 1,200,000円 |
リサーチ費 | 200,000円 |
撮影技術費 | 600,000円 |
モデル費 | 300,000円 |
メイクアップ費 | 210,000円 |
ロケ雑費 | 180,000円 |
編集費 | 1,000,000円 |
CG作成費 | 700,000円 |
イラスト制作費 | 400,000円 |
音効費 | 400,000円 |
ナレーション費 | 150,000円 |
MA費 | 240,000円 |
合計 | 6,980,000円 |
もっと規模が小さい場合(規模による制作費の相場)
上記の仮見積から、70項目120分程度の、ある程度クオリティの高い動画集を作成するとなると、700万円近い予算を覚悟する必要があることがわかります。どんなに絞り込んで制作したとしても600万円程度が限界ギリギリではないかと思います。
では、もっと手軽に作れるように、小さい規模で制作した場合の相場を考えてみましょう。
35項目 総尺60分程度の規模
この規模なら、まだスケールメリットが期待できますから、単純に半分ですので、350万円前後が目安になると思います。ロケは三日程度を想定します。
20項目 総尺40分程度の規模
この規模以下になりますとスケールメリットがあまり無い状態になります。弊社の経験則からも、280万円前後が目安と思います。
クオリティによっても価格は大きく変わります
想定するクオリティによっても価格は大きく変わります。もう少し安価に動画を制作したい場合、企画段階でコストがあまりかからない方法を提案することも可能です。目指すクオリティ要求水準が上がれば上がるほど、価格は上がります。しかし企画性の工夫でコストを下げることは「ある程度」ではあるのですが、可能です。
ぜひご相談いただければと思います。
介護動画制作のご案内
弊社は医学/看護学/介護動画を数多く制作してきたエキスパートです。教材メーカー様などとのコラボレーションでの制作実績も豊富ですので、契約の段階から皆様にストレスフリーの現場をご提供します。ぜひご相談いただければと思います。