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マーケティング動画にとっての感動の重要性

近年のマーケティングの流行は「感動」の活用です。簡単に言えば、大量生産大量消費の時代が終焉を迎え、物質的な豊かさは当たり前のものになり、多様化したニーズに応えるためにIoTの活用によってラインの上で多種多様な製品を作れるような、モジュラーデザイン/スマートファクトリーの時代に突入している状況ですから、当然、多様なそれぞれの製品というものは、多様なそれぞれのターゲット層に最適化されて作られています。つまり個性的な製品が、個性的な「個」に向けて作られる時代だということです。

一括大量生産とモジュラーデザイン生産

モジュラーデザインが購買客の個性に合わせた生産を可能にした

「個」に絞った製品やサービスを売り込むには、これからご紹介するように「感動」の様々な要素が欠かせなくなります。例えばある工業製品を使った時に、ユーザーが「へー、いいね」と思ったとします。この「へー」という感嘆詞の中には、これまで体験したことが無かった感覚への驚きや感心の意味が含まれています。

製品やサービスを企画する人たちは、こうした「へー」を増やそうと日々努力しているわけです。ですからそれを売り込む動画を作る側も、「へー、いいね」と思ってくれそうなターゲット層への訴求を第一に考える時代が来ていると思います。その方法論の一つが、「感動」の活用なのです。

例えばですが、電動自転車を売り込む場合ですが、いくら言葉で「モーター付き」「楽々スイスイ」と謳ったところで、共感は得られません。それよりは、普通の自転車の後ろに子供を乗せて真っ赤な顔をしながら必死に坂道を登っている筋肉ムキムキのイクメンの横を、タンスでも載せた電動自転車のおばあちゃんがスイスイ登って追い抜いていく動画を一発見せたほうが楽に伝わるはずです。

これは「こんなことにお困りのあなたへ」という書き出しで始まる広告と同じ構図ですね。つまり子育て中で重たい思いをしているお父さんお母さんに「共感」を得ようという「ターゲットを絞った広告」の事例です。
そして、ここに出てくる「共感」というのも実は「感動」というものの要素の一つです。

IoTは効果的に多種多様な製品を生み出すことを可能にしました。多種多様な製品が作れるということは、個別の製品ごとにターゲットの違う製品を生み出しやすいということです。つまり個々のお客様に向けて、そのニーズにジャストフィットする製品を開発できるということになります。当然、それらを売り込む時も、そうしたお客様の層に絞ってジャストフィットな広報宣伝を打ったほうが効果的です。こうした事情もあり、今、広告業界などでは「感動」というものをいかに商品化していくか?ということを真剣に考えているわけです。

最近の映像制作会社のサイトを眺めていると「感動」という言葉が使われることが多いように思います。つまり今のマーケティングの潮流に合わせて「感動させる動画を作っていますよ」というアピールなのでしょうが、本当に理屈や方程式として、どこをどう演出すると、その動画が「感動的」に見えるかどうか?それを説明できる人がどれだけいることでしょう。

私は学者ではありませんので、学術的に「感動」というものが脳科学や心理学などの分野においてどこまで研究されているのか?その最新事情はわかりませんが、映像演出家としてこれまでの経験則から、いくつかの法則が私の中にありますので、その手法をご説明したいと思います。

感動とは何か?

映像や動画にはそれぞれ役割というものがあります。例えばマニュアル動画では、視聴者の知りたい欲求を満たすことが第一に求められる役割です。ニュース番組は最新のニュースを知るための番組です。では、例えばドキュメンタリーは一体何のために存在し、それを観ている人は一体何を期待しているのでしょう?ある放送回ではシャチの特集だったのに、その次の放送回は宇宙ロケット特集だったりと、毎回違う分野を扱うにも関わらず、なぜかこの手の番組の視聴者は固定しているのです。つまり彼らにとっては「ネタ」は何でも良いわけです。そう考えるとこのジャンルは視聴者の目的がどこにあって、どんな情報を求めてチャンネルを回してくれているのか?わかりにくいですよね?

私から出せる答えは「感動」です。感動こそ彼らがネタに関わらずドキュメンタリーを見てくる動機だと考えています。

ドキュメンタリー番組の代表として『プロジェクトX』を例にすると、あの番組は毎回「工業製品」や「サービス」といった様々な「商材」の中でも歴史的にエポックメイキングだったものを取り上げます。これらの商材については視聴者も現物は見たことがあるし使ったこともあるわけです。ところがそれを作った人がどんな人なのか?どんな物語があって作られたのか?その舞台裏を視聴者は知らないわけです。

この番組では、例えば日産フェアレディZの放送回では冒頭のオープニングで1969年に発売されたZがアメリカの荒野を疾走するシーンで始まります。クルマ好きにはたまらない映像です。本当ならもっと美しい映像を観たかったのですが、ま、このあたりはカメラマンもお仕事でしょうから、欲は言いません。しかし、まあクルマ好きにとっては、この初代Zというのは特別な存在なので、初代Zが実際に走っている映像が見れるだけで「うっとり」です。

オープニングに続いてスタジオには、このクルマの企画者であったり、設計者であったり、またデザイナーであったり、いわゆる裏方さんが主人公としてスタジオに招かれ登場します。すると視聴者には「へー、こういう人がこの製品を作ったんだね」という心の動きが生じます。失礼ながら彼らの見た目は「普通のおじさん」です。しかし、だからこそのギャップがあり、このギャップが驚きになるとも言えます。

そして製品開発の段階を再現ドラマや資料映像で振り返る段階になると、「苦労したんだね」「わかるわかる」という心の動きが生じます。視聴者も普段は会社であくせく働いて何かを作っていたり、企画していたりといった社会生活をしている人でしょうから、多くの人がこの苦労話には共感できるはずです。

そしてエンディングでは、製品が世に送り出され、社会に受け入れられ、「めでたしめでたし」となります。

これらの流れの中の1シーンでも1カットでも、実は何か特別な魔法かけられたものは存在しません。あるのは普通のクルマの画とおじさんの顔だけです。しかしこれらが組み合わさることによって、「歴史的名番組」とも言えるドキュメンタリーが完成するわけです。
では、それぞれの要素を分類して秘密を探っていくことにしましょう。

感動を要素に分ける

では、ここから、感動を再現性のあるものにするために、いくつかの要素に分類してみたいと思います。ここでは便宜上、三つの要素として分類してみたいと思います。もちろん感動という事象の研究が様々な専門家の間で行われ、諸説あるでしょうから、これはあくまで私が映像演出をする際に意識していることと但し書きをつけさせていただきたいと思います。参考程度に読んでいただければ良いと思います。

五感への訴求

先ほどの『プロジェクトX』の例で言うと、まずクルマの画に「美しい」と感じる心の動きがあります。そしてオープニングの音楽もまたドラムのきいたダイナミックなものです。大変映像的な表現で、よくできたオープニングだと常々感心していたのですが、これらは美しさと迫力といった、五感に訴えかけるものです。
もちろん映像の場合は画と音しかありませんので「五感」というのは嘘になるのですが、肌触りや匂いなども感じられるような撮影上や構成/編集上の工夫は大切です。
布製品なら、送風機を使ってふんわりと宙に浮かせて肌触りを感じられるよう工夫したり、また冷たいドリンクの宣伝なら、わざと汗まみれの暑苦しい男性モデルに飲ませて、飲んだ瞬間に汗などまるで感じさせないさわやかな背景に変えたりといった工夫は、一般的にCMなどでは行われている技法で、映像を通じて視聴者に五感の感覚を疑似体験をさせる試みです。
先ほどの電動自転車の宣伝映像の場合だと、背景は普通の住宅街の坂道にするよりは、もっと工夫した背景が良いでしょうね。映像の強みというのは、実はこうした視覚と聴覚の疑似体験という要素もあるので、ここはうまく活かしたほうが良いと思います。

情報性の追求

知らない情報をたくさん詰め込むというのは感動を生み出す基礎となる下地ですので、とても大切な要素です。
情報というと、語感が冷たいですが、いわゆる「へー」「ほう」と感心させることです。知らない情報を知るということは新たなものに触れるという体験ですから、視聴者にとっては驚きなどの感情にも結び付く重要な感動の要素なのです。
また、知的な面においても視聴者は知識が増えることによって主観的実体験として「成長」を感じることができます。自分が成長したことを実感できるのですから、これは感動の要素としては外せない条件であると言えます。
さらにこれは誰もが体験したことがあると思いますが、自分の知らない情報の中で、比較的理解しやすいものは、映像を眺めながら自分の体験と結び付け、新しい情報を生んでいることがあると思います。番組が与えているのは簡単なデータであったりインフォメーションであったりするのですが、視聴者が自分の経験や知識と結び付け、それをインテリジェンスに昇華させているわけです。こうした「発見感」もまた感動の一種となっており、良質な情報が映像作品に欠かせない理由の一つです。
先ほどの『プロジェクトX』の例で言うなら、クルマの企画者やデザイナーの顔や、開発の裏舞台です。また難問の解決策、そして気持ちが折れないための思考パターンなども情報としては大変有意義ではないかと思います。どんな難問があって、それをどう解決したのか?など、新しい情報に視聴者は自分の体験や知識を総動員して解釈していくわけです。これができたら視聴者は釘付けです。

つながりと地べた感の重要性

これは映像演出をする際には本命となる要素です。
例えば世界的なスポーツ選手が、もし「俺は天才だから勝利できる」とコメントしたら、皆さんはどうお感じになるでしょう?

共感できるかどうか

共感できなければ視聴者は「どん引き」するが、共感できれば一緒に喜ぶという「体験」ができる

たとえその選手が本当に天才で、事実として勝てているとしても、「嫌な奴」と思うことでしょう。世界的に活躍するなんてことは、普通の人には縁遠い世界です。そんな人に「天才なんです」などと本当のことを言われてしまうと、これは共感することができません。
99.9%の人は、たぶん何らかのコンプレックスを抱いていますし、コンプレックスをバネにして、努力をしている人たちです。先ほどの選手の天才発言に共感できる人が0.1%くらいはいるかもしれませんが、99.9%の人は共感などできないはずです。
共感できなければ画面との距離が生まれ、画面のワクを取っ払えません。

共感というのは、ちょっと説明が難しいのですが、他者と同じ立ち位置に立ち物事を見て感覚を共有することです。例えば、99.9%の「普通の人の一人である」という立ち位置から「世界的スポーツ選手の自称天才発言」を眺めれば、「あいつは嫌な奴だよな」と、同じ意見を共有することができます。
逆に連戦連勝のスポーツ選手が「自分には特別な才能が無くて悩んでいたんですよ」と言ったとしたら、「才能が無い自覚」という視点を共有することで、その選手に自分の姿を重ねることもできるはずです。自分とその選手の視点が重なり同じ位置になるということは、その選手の苦労談や体験を自分のこととして疑似体験できるということです。

立ち位置が違うと共感できない

立ち位置(視点)を共有できていないため、共感することができない状態

山の上から雲海を眺めて、電話で街にいる家族に「本当にきれいな景色なんだよ」と言っても、「そう、よかったね」で終わりですが、一緒に山に登ったとしたら「きれいな景色だね」「うん、きれいだね」と共感することができるでしょう。
要するに同じ視点に立ち、同じ景色を眺めるということが、共感の第一歩だということです。

共感の事例

立ち位置(視点)を共有することで共感が生まれている状態

実は映像を制作する際に一番私が大切にしているのが、この「共感」という要素です。

先ほどから例に出している『プロジェクトX』においても、この共感が、感動の要素として活用されています。
この番組でゲストとして呼ばれるのは、普通のサラリーマンです。本当はその業界では重鎮でしょうし、有名なのでしょうが、しかし番組上はそういった扱いをいたしません。フェアレディZの回でも、開発に名乗りを上げたのは日産の中でも、特殊車両を扱う部署だったという話になっています。もっと言えば、「バキュームカーを作っていた部署」ということを、ことさら強調しています。これも演出的な狙いがあってのことでしょう。

主人公は窓際なら窓際なほど感動的です。日産に入るくらいなのだから本当はエリートなのでしょうが、しかしエリートとして描いてしまっては共感を得られないのです。こうした演出を、私に演出を教えてくれた先生は「地べた感」という言葉で表現していました。

視聴者の主観的成長体験

ここまで様々な感動の要素をご紹介してきましたが、大枠として視聴者が自己の体験として「気持ちが洗われた」「成長した」「共感した」というような主観的経験を感じることができる作りを目指すことが大切です。そして主人公の立場に自分の姿を重ねさせ、ストーリー(ある種の夢のようなもの)を体験させてあげるのです。
工業製品の企画現場ではユーザー・エクスペリエンスという言葉が使われますが、これは「ユーザーの使用体験・体感」といったイメージの言葉です。優れた映像や動画というのは、他人の体験を疑似体験したり、考え方を追体験したり、その作品を通じて何らかの体験や体感を視聴者に与えるもので、まさに通じる概念です。そしてこうした「オーディエンス・エクスペリエンス」といった考え方が、「感動的な映像」を「再現性をもって生み出す」手助けになると思います。

また、「視聴者の自己の体験として」という但し書きはとても重要な意味を持ちます。感動というのは主観的な現象ですから、視聴者自身に対して何か変化を起こさなければ、感動という現象は起きないはずです。ですから、感動を補足する要素として、視聴者を前のめりに共感させる仕掛けが必要になります。

次回はそんな話を少ししてみたいと思います。

 

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