医学映像に美学を共存させる
インターネットを通じて海外の医療動画が日本に流れ込む昨今、まさに日本の医学映像の業界にも黒船が来航しているのです。
海外の学会は医学に限らず美しいCG動画で彩られ、パワーポイントひとつにしてもプロのデザインワークが入っていることが多いです。
ドラマなどでも美しくリアルなテイストの医療医学CGがインサートカットとして入っており、作品に説得力と重厚感を与えています。特に国策として映像を考えて戦略的に展開してきたアメリカの映像作品は力強く、刺激を受けるものが多くあります。日本の学術動画がいかにこれまで新境地の開拓に消極的だったかを痛感している方もいらっしゃるのではと思います。
しかし、ここにご紹介する脊髄性筋委縮症(SMA)治療薬リスジプラムに関する動画「リスジプラム薬効薬理試験結果」は、学術的な内容を強く「訴求」して可能な限り早く「普及」させたいという願いから、クライアントである中外製薬様のみならず、監修医やメディカルレビュー様のスタッフ全員が、その流れを変えようとした作品です。
絶対的な価値と共存できる他の価値は残す
もちろん情報が整理整頓され、優先順位が割り振られ、その優先順位に則った構成がなされることは「当たり前」です。これらは学術を扱う動画においては「絶対条件」です。しかしその絶対条件を満たしているからといって、そこで満足してしまっては先がありません。
これまでの医学映像は、情報の正確性や重み付けといった「絶対的な価値観」を重要視するあまり、テレビCMや番組、そして映画など他の映像では当たり前とされている価値観を見失ってきたのではないでしょうか?他の価値観が絶対的な価値観を邪魔するものなら排除すべきですが、共存共栄できるものなら、排除する理由はありません。
弊社デキサでは、これまでにも多くの医療医学映像ばかりか、工学や化学など幅広い学問を扱う動画制作を手掛け、そうした中で「学術動画のあるべき姿」を「基本」から積み上げてきました。そして最も大切な「絶対的価値観」を犠牲にすることなく、自分たちの「作風」を熟成してきたのです。
多くの解剖モデルや生化学モデルが登場
このVTRは医薬品の作用機序や薬効薬理試験結果をご紹介するためのものですが、作用機序を説明するためにはある程度病理病態の解説も必要なため、「脳→脊髄→神経→筋肉」といった解剖CGが必要でした。また遺伝子や様々なタンパク質の可視化も必要だったため、今回の動画にあわせて多くの新規形状データをモデリングいたしました。
以下にそうしたモデルをご紹介します。
脊髄CGモデル
脊髄性筋委縮症は前角細胞の変性がきっかけで起きる病気のため、脊髄のモデルはとても大切です。しかも前角細胞がよく見えるようモデリングする必要があります。
リスジプラムは小児のみならず成人にも使える薬として承認されています。そのため成人男子のモデルを基本として脊髄を描きました。
神経筋接合部CGモデル
神経から筋肉へと信号が伝わる箇所です。より本物「らしく」感じてもらえるように、今回の動画のために筋繊維の一本一本に細やかなアニメーションをつけるという入れ込んだCGモデルを特別に作成いたしました。
本当にリアルなことと、リアルっぽいことは別で、実際にリアルな筋肉など、上に皮膚もありますので撮影することはできません。あくまでリアル「っぽさ」を演出することに集中しています。
DNAのCGモデル
今回の動画のために、実際の寸法に近いDNAのモデルを新たに作成いたしました。主溝と副溝が明確にわかるかと思います。アデニン、シトシン、チミン、グアニンといった塩基の分子構造をそのままモデリングしていますので、原子同士の結合の仕方によって決まる方向やサイズなどの形状を再現できました。その結果、らせんのねじれ方や寸法も極めてリアルです。
こうしたDNAの三次元モデルは多くのCG素材販売サイトで売られていますが、ここまで正確なものは多くはありません。大変正確な部類に入ると思います。
RNAポリメラーゼのCGモデル
RNAポリメラーゼのモデルです。タンパク質データバンクの形状を基に再現していますので構造的には大変正確なものです。
こうしたタンパクは多くの映像作品で登場しますが、大抵は模式図的なモデルで済ませます。今回は全体の作風を統一するために、あえて難易度の高い表現を用いる必要がありました。
SMNタンパク質のCGモデル
5番染色体の中に存在する原因遺伝子であるSMN1遺伝子から生まれるSMNタンパク質。様々な細胞プロセスに関与するこのタンパク質が、ある意味このリスジプラムVTRの主人公です。
SMAではこのSMN1遺伝子が欠失または変異しているため、完全長のSMNタンパク質の産生は修飾遺伝子であるSMN2遺伝子に依存しています。
医学映像にも映像文法に忠実な演出構成を
医学映像も他者に何かを伝えるためのコミュニケーションツールであることに変わりはありません。つまり時間の流れの中で順序を追って説明することによるわかりやすさ、画像そのものや動きが伴う美しさ、画と動きと音で一発で理解把握ができる直感性といった映像が持つ特性を活かすことは、「映像化する理由」であり、これらが成立しないなら映像にする理由さえ失い、仕事をしましたという証拠を作ってお終いという残念な結果になります。
弊社は「医学専門」と謳ってはいませんが、極めて多くの割合の過去実績は医学に関係するものです。さらにその上で、スタッフは在京キー局の番組やCM制作の現場で視聴者が数千万人という大きな舞台で経験を積んできた者ばかりです。「どう伝えるか?」「映像の特性に合わせる」といった作法に通じているため、医療医学の分野の映像制作においても、キモを外しません。また、「医学動画だから」「学術関連動画だから」といった凝り固まった先入観も無く、的確な表現を用いて映像化いたします。
映像は「映像でなければ伝えきることができない情報」を伝えるためにあるのです。ここを忘れ、教科書と同じイラストをそのまま動画の中で使うような方法は控えるべきでしょう。本で扱える内容なら、本で伝えたら良いのですから。
今回、納品完了いたしましたリスジプラムの薬効薬理試験結果動画は、海外から押し寄せる動画から刺激を受け、これまでの日本の医学動画の常識を壊した上で100年の歴史の上に立脚する映像の文法に忠実に制作を行ったという点で大変独特な存在です。そして中外製薬様という大手製薬企業が打ち出す新しい医学動画のベンチマークとして、日本の医療業界における情報伝達に、良い影響を与えてくれるものと弊社は期待しています。
医療映像/医学映像の制作ならデキサ
デキサでは20年以上にわたり医療機関、大学、製薬企業、医療機器メーカーと様々なクライアント様に向けて医療・医学映像の制作サービスを提供してまいりました。
撮影だけではなくCGやイラストアニメーションを制作することもできる総合映像制作プロダクションのため、医療機関様の広報映像や製薬会社様の機序動画、論文の動画化や医療機器のPR動画と、ジャンルを問わず医療映像の制作全般にお引き受けしてまいりました。
テレビ業界のワークフローをそのまま取り入れておりますので大手の伝統的な映像制作会社で働いていたディレクターやプロデューサーなら誰もが抵抗なく弊社と協力関係を築くことができ、中継番組や製作費数千万円規模の番組の現場で闘うカメラマンやビデオエンジニア、そして音声マンや照明マンも、何の違和感もなく弊社デキサの現場で働くことができます。
こうした弊社の「伝統的映像業界の共通言語」は、そこで育った叩き上げのスタッフによる映像制作に欠かせないもので、多くのプロのノウハウを集結させることに大きく役立ちます。そしてこれらのノウハウはそのままお客様である皆さんの医療や医学の映像を制作する際に見えるカタチで活きてくるのです。
大規模な作品から小規模な作品まで、規模を問わず、最良の映像をご提供します。