2024/6/28公開
国民に寄り添うのがテレビ
よく、こちらのブログを読んだお取引先様から言われるのですが、私はテレビ業界でキャリアをスタートして映像を学んだ割には、テレビ業界に厳しいように見えるらしい。
ちゃんと説明をしますと、私の場合はテレビというメディアの社会的な立ち位置や役割を強く認識して理解しているからこそ「ここ最近のテレビはおかしいよ」と言い続けているわけです。
テレビは国民の立場に寄り添うべきで、国民の利益になるように動かなければならないはず。ところがウソがあったり偏りがあれば、個々の国民の意志決定に大きく影響を与え、それが行き過ぎれば自由主義の崩壊にもつながる可能性がある大変危険なことだと私は断言します。
自分のこととして考えてみてほしいのですが、皆さんは選挙で票を入れる際にどこから情報を得ていますか?やはりテレビや新聞などで流れてくる情報が多くを占めていませんか?実際に各党のマニュフェストを全部集めて、隅から隅まで読みつくして、そして誰に投票すべきかを決めるのが理想ではあるのですが、仕事もあるし学業もある、そんな細かくはなかなか調べられない。となると過去にテレビや新聞で見たり読んだりしたことをベースに、「●●党は反論だけしてて実効性に乏しい意見ばかり言ってるよな」とか「●●党はカネの問題が多そうだな」とか、イメージで判断しているのでは?つまり、国民側も時間はあまりありませんから、普段マスメディアを通じて流れてくる情報を基にして誰に票を入れるか決めいるわけです。
となると、もしそのマスメディアの情報に偏りがあったりウソがあったりしたら日本はどうなってしまうでしょう?少なくとも国民に対して重要な判断基準を与えるマスメディアが偏りを放置したり、ウソ八百を言っても胸が痛まないようなら、日本の未来も明るくはありません。
激録・警察密着24時!!の過剰演出
で、本題ですが、先日は新型コロナウイルス蔓延を扱ったNHKの番組が大変な捏造をしたばかりですが、今度はテレビ東京が警察密着番組でやっちまったらしい。
どんな事案だったかは「テレビ東京 激録・警察密着24時!! 過剰演出」などでググってもらえれば詳細はわかると思うので、ここには書きませんが、要約すると、番組では愛知県警が捜査していた「鬼滅の刃」に関する不正競争防止法違反の疑いがある事案を取り上げたのですが、結局その逮捕劇の後、4人のうち3人が不起訴になったのです。ということは番組でその4人全員を完全に悪者に仕立て上げたのは間違いだったということです。
さすがにテレ東さんも今回のことは速攻で謝罪をしています。謝罪発表のコメントは以下のようなものです。
「逆ギレ」や「今度は泣き落とし」といった刺激的なナレーションを多用したり、「“ニセ鬼滅”組織を一網打尽」といったテロップを使用したりして配慮を欠いていた
新聞やネットメディアでは先日のテレ東の警察密着での件は「過剰演出」と書いているものが多いですが、ハッキリ言えば「捏造」です。ディレクターたちが取材で面白いネタが拾えなかったから、適当に手持ちの素材をこねくり回して面白くしてしまったということです。だって例の”ニセ鬼滅”で逮捕されたうち不起訴が3名いた事実があるわけですから、これって逮捕までで番組終わらせたらダメでしょう。全員有罪なら放送できたかもしれませんが、4人のうち3人が不起訴ってことは、この逮捕された人たちがいた会社は、ほとんどホワイトのグレーであって決してブラックではありません。
テレビ番組制作の構造的問題
でね、これって誰が悪いんだろうな?と考えたわけですよ。テレビ東京が悪いのか?というと、まあ、確かに悪いのは悪いですが、謝罪も素早かったし、本気で悪い事したと反省してるんだろうなと感じました。で、思ったのは番組制作会社はこの顛末が予想できなかったのか?という疑問です。
だって番組制作会社が捏造もしくは何か制作進行上のミスをしたら、テレビ局は確かめようが無い。
局のプロデューサーというのはほぼロケ等の外の現場には出て来ません。完パケに近いオフライン段階でのプレビューはしますが、そこまでの途中経過や取材時の様子を見ているわけではないのです。ですから番組制作会社が途中経過で(例えば今回撮影した逮捕劇で捕まった4人のうち3人が不起訴になっていたことを無視したり知らなかったりといった)制作進行上のミスをしたとしても、画面に映っているものしかチェックしようがありませんので、知る術が無いというのが現状なのです。
さらに言えば局のプロデューサーが「捏造してでも面白おかしく作れ」なんて馬鹿なことを言うでしょうか?いや、言わないでしょう。せいぜい言えたとしても「これじゃ成立しないよ、何とかならないの?」くらいだと思う。そのくらい局はコンプライアンスが(そこそこ)しっかりしている。
番組制作会社は法律を勉強してくれ
では制作会社はどうか?私の経験から言いますと、今の番組制作会社は、もっといろいろな事を学んだ人を優先的に雇うべきだと実感しています。
私たちデキサはテレビ番組に使用される3D-CGを制作/供給したりしています。こういうCGの供給元になっている時は、局が制作している番組ならテレビ局から直接受注しますし、番組制作会社が制作している番組なら番組制作会社から受注します。つまり、テレビ局からも番組制作会社からも、私たちデキサはどちらからも受注しているのです。
だからこそ両者を比べられるのですが、テレビ局はさすがに法務部もあるしコンプライアンスはそこそこ徹底していて気持ちの良い取引ができます。つまるところテレビ局のプロデューサーは下請法も理解しているんです。ところが番組制作会社からの受注をすると、途中で値切られたり、ムチャなスケジュール変更を要求してきたりと、下請法についての知識がプロデューサーレベルの人にすら無い事が多い。結局、遵法意識が薄いというか、法律についての知識が無いのです。
例えばですが、テレビに出ているような有名弁護士を顧問弁護士につけているような番組制作会社でも、その顧問弁護士に相談してなきゃ単なる名前貸し。結局は下請法を破ってばかりで顧問弁護士先生が知ったら卒倒しそうな状況ですよ。
一時が万事という言葉がある通り、下請法を知らないような人たちですから、遵法意識が薄いとしか思えない。そもそも法律なんか知らないから「もし撮影した逮捕劇の逮捕者が不起訴の場合はどうしよう?」などの対策が出来ていなかった可能性すらある。というか、起訴になったか確かめてもいないんじゃないかとすら思えてしまう。法律を知らないから確かめる必要性すら感じてなかった可能性もあります。
こんなレベルですから、今回のテレ東の警察密着番組の例なんか氷山の一角かもしれませんよ。小さいミスは他にも起きている可能性があります。
テレビ局員が現場に出るのが一番
もうね、番組制作会社のクルーと一緒に、ある程度のインテリジェンスを持ったテレビ局員のプロデューサーが現場に同行したほうが良いよ。そうじゃなきゃ責任取れないでしょ。あるある大事典Ⅱみたいな大番組での捏造を含め、もうずっと昔から同じような問題を、多くの局が起こしているんだから、これはもう構造的欠陥、チェック体制の問題。だったらいつまでも「制作会社のディレクターを信用します」じゃなくて、自分らでチェック体制を作ろうよ。
人が足りないなら、局がまともな知識を持った人をたくさん雇い入れて、制作会社の現場に送り込みましょう。これが一番の方法ですよ。だってこれまでに起きた捏造問題は、現場のディレクターを一人にしたり野放しにした時に起きています。彼等は手柄さえ取れば次の仕事が来るから、どうしてもムチャをしがち。お目付け役ではないけど、念のためにチェック体制は作らないと、また同じことが起きると思う。
今後のメディアの成長に期待していますよ。